第28回 ナチュラルなブドウ、
自然派のワインは存在するか(2)
文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)
- 2015年5月5日
アメリカ、つまりはカリフォルニアでのワイン作りは「蔵から」始まる。ブドウ栽培から手がけるワインメーカーは少なく、通常は栽培農家からブドウを買い付け、醸造所に運ぶところからワイン作りが始まる。ブドウの質を確保するために、売買契約によっては、ブドウ収穫時の糖分の数値(質の目安)を指定したり、収穫量を限定することもあるが、ワインメーカーが常に畑で目を光らせている訳ではない。
農作物は自然に大きく左右される。多少質の落ちるブドウでも売買が成立しなければ、ブドウ農家もワインメーカーも生活が成り立たない。不作のブドウからワインを作るには、テクノロジーに頼らざるを得ない。例えば、最悪のビンテージといわれた2011年。天候不順でブドウが完熟せず、しかも収穫時の大雨でブドウが水ぶくれし、湿気でカビが発生した。もっともこういう年だからこそ、良いブドウだけをピックし、少量のワインを作った懐の深いワインメーカーもいた。
とはいえ、大抵はそんな経済的な余裕はなく、腐りかけたブドウに薬品を加えて雑味を抑え、水太りの水分を飛ばす装置で手当てを施した。このあとビタミン剤や栄養素を投与し、スーパー酵母を使って、アルコール発酵を起こし、無事ワインに仕立てた。こういう「近代的ワイン作り」は、気候の良い通常年にも行われている。というのは、アメリカ人の好みが、どっしりと重いフルーティーな「ビッグワイン」に偏ったことにある。こういうワインを作るためには、ブドウを相当熟れさせる必要がある。
熟成を待ち続ければ当然、糖分が上昇し続ける。同時に、酸度がどんどん落ちて行く。こういうワインは、もったりと締りのない味になる。そこで、発酵前に酒石酸を加えるのが、当たり前になった。 良識のある作り手は、糖分と酸味のバランスが良い時期に「早摘み」し、無駄な加酸は避けるものだ。しかもこれだけ糖分が高ければ、当然アルコール度数も高くなり、ワインのバランスが悪くなる。度数が15%以上を超えると、ワインという規定から外れて、税率が上がってしまうという経済的なダメージもある。
そこでワインからアルコールを抜く、超ハイテク装置のお出ましとなる。こういうテクノロジーにかかると、アルコールだけではなく、ワインのフレーバーやタンニンなども分離できるので、正にワインメーカーの意のままに、味をコントロールができる。非常に高価な機械で、しかも大容量のワインを一度に操作するため、大手のメーカーや、処理コストをワインの小売価格に上乗せできる生産者でないと、使えない。つまりは、ナパを中心とした地域で使われている技術である。
逆に、カリフォルニアでも涼しいモントレーなどは、メルローが完熟しにくく、アメリカ人が嫌がる青臭さが残る。こういうブドウは、潰す前に超高温で加熱すると、皮が破れ易くなり、そこで圧搾にかけると、皮と身の間に詰まった色素やフレーバーを抽出しやすくなるという訳だ。
その他にも、万能の「味の素」よろしく濫用されているのが、「メガパープル」と、樽の切れ端で作った「オークチップ」や「オークパウダー」であろう。メガパープルはその名の通り、非常に濃い紫色をした濃縮ブドウジュースで、赤ワインにすこし加えるだけで、色、甘味そして舌触りがぐっと向上する。新しい樽でワインを寝かせる最高級ワインはともかく、一本十ドル程度のワインに一樽千百ドルの樽を使う酔狂なワインメーカーは居ない。当然、オークデリバティブで代用する羽目になる。これらの技術を「不自然」と非難するのは簡単だ。が、誰でも買える価格でワイン作りを実現できるのは、正にこういうテクノロジーの賜物である。ちなみにこれらの技術はフランスから流れて来たものもあり、世界中で使われている。
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