第26回「甲州ワイン」―日本を代表する国際品種―を検証する
文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)
- 2015年3月5日
日本産ワインの代表として、2010年にEU登録を果たした「Koshu」。晴れて国際品種として認知されたことと、緩かった日本のワイン作りを国際規格に引き上げることで質の向上を目指し、ロンドンやパリの和食レストランを切り口に海外展開をしていく構えだ。
鎌倉時代から食用として山梨県で栽培されてきた甲州ブドウは、日本の地場品種として認識されているが、最近UC Davis(米国ブドウ栽培、醸造学の権威)のDNA分析で、その祖先がヨーロッパのヴィニフェラ品種(カベルネ、シャルドネなど数百種を有す)であると鑑定。古代シルクロードを渡り、中国から日本に持ち込まれた品種が、日本独特の風土に帰化したものらしく、UC Davisによると、ヨーロッパ品種が祖先とは言え、独特の構造を持っており、大変珍しい品種とのこと。
原産地の勝沼を中心に、山梨県で主に栽培されているが、シャルドネやリースリングのような優良ヨーロッパ品種独特のきれいな酸味や深い味わい、長期熟成に耐える資質が不在で、どちらかというと「凡庸な品種」として知られる。初めて甲州ワインを飲んだ感想は、「可もなく不可もなく」、「これが日本を代表するワインなら、同じ価格のソービニョンブランやシャルドネを飲んだほうが良い」という意見も。
日本が甲州の輸出にこだわるのは、いくつかの事情がある。まず、雨が多く湿気も高い日本の風土では、純正なヴィニフェラ種がうまく育たなかったこと。近隣の小国のニュージーランドが、独自のスタイルのワインを世に送り出し、あっという間に国際市場での地位を確立したことによる刺激。更に言えば、フランスのように特定地域の「特産品」的なワイン(シャンパーニュやボルドーなど)を、日本もブランディングしたいという戦略がある。
とはいえ、日本にはワイン規制法が存在せず、『国産ワイン』の法的定義が、「5%のブドウが国産であれば良い」という緩さ。つまり日本の大手ワインの原材料(ブドウやブドウジュース)は、ほぼ全て(95%)が海外からの輸入でまかなわれているという実態が伺える。今般の甲州ワインEU輸出にあたっては、厳しいEUのワイン法が適用される。つまり「Koshu」とラベルに謳った場合、甲州産のブドウを100%使用しなければならない。皮肉なことに、純正な甲州ワインを飲みたいのであれば、日本ではなく、ロンドンで買えば間違いないということになりかねない。もっとも、「国産のシャルドネ」ならいざ知らず、「甲州」と書かれたワインに、混ぜ物が高い可能性は少ないかもしれない。
香りも味わいもニュートラルな甲州ワインは、繊細な日本食の邪魔にならないのが「売り」で、これに「シュールリー製法」を用いることで、深みを加える試みがある。この製法は、フランスの日本食ワインといわれるミュスカデ品種(ロワールの白ワイン)に適用される手法で、ワインを澱(発酵が終わったイースト菌の残骸や、ブドウの皮など)と一緒に漬け込んで、アミノ酸などの旨味成分を抽出して、ヨーグルトやサワークリームのような風味と、まろやかな口当たりを加える。Muscadetはせいぜい7〜8ユーロのワインだが、恐らく海外でも15〜20ユーロはするであろう「Koshu」と飲み比べて、甲州ワインの現実的な国際競争力を鑑みるのも乙であろう。
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