シリーズ世界へ! YOLO⑰
自転車で回る台湾~前編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2015年3月5日
台南 / タイナン /Tainan
高雄から車で北へ1時間で、台南に着く。かつての台湾の首都で、200年続いた歴史は台北よりも長い。
古都らしく、街の中には史跡が多い。道が入り組んでいて、歩くのも楽しいし、碁盤の目よりもずっと落ち着く。
石畳の途中で、「窄門」(ナロー・ドア)という名の喫茶店を見つけた。人が一人ようやく通れるぐらいの細い路地を入って2階に上がる。古い家を改装した個性的な喫茶店で、なんとなく東京・下北沢を思い出させた。
窓からは、孔子廟が見える。「学問の神様」、日本でいえば太宰府のようなものか。国学の場として1665年にできた。日本の占領下で一部壊されたが、今は色鮮やかに修復されている。境内の壁に「受験祈願のお札」が貼ってあった。「有名大学に入れますように」とか、「高校の期末試験でいい点が取れますように」とか。願いの規模は大小様々。神頼みの切実さは、万国共通だ。
無事の卒業、お礼参りだろうか。赤いローブをまとった女学生が、記念写真を撮り合っているのが見えた。
喫茶店の名前は、細い路地ではなく、聖書に由来するらしい。「狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、しかし命に通じる門はなんと狭く、その道も細いことか。それを見いだすものは少ない」。店の雑記帳にそう書いてあった。もしかしたら、受験生がくぐる「狭き門」にまで引っかけているのかも。
◆ ◆ ◆
台南は、台湾を代表する料理、「担仔麺」(タンツーメン)の発祥の地だ。
伝統的なお店に行けば、目の前で、ゆでた麺を小さなお椀に盛って、肉や煮込んだエビ、モヤシをのせて出してくれる。一杯のかけそば的な雰囲気。
もとは、天秤棒をかついで売り歩き、道ばたでつくって食べていたという。店にある昔ながらの調理器具を眺めていたら、同行している香港生まれのアメリカ人女性が「懐かしいー」と感嘆した。「子供の頃、香港の街角でも天秤棒かついだお店でこういうものばかりよく食べたわ」と言う。
そう言われてみれば、私が子供の頃、東京の都心でも、道ばたでゆでる小さな即席ラーメン屋はあったし、中華料理屋に出前を頼めば、銀色の天秤棒で熱々の麺をかついで来てくれた。それほど遠い昔のことではない。
「不衛生だったんでしょうけど、昔は誰もお腹をこわさなかった。今は、すぐに病気が流行って大騒ぎ。いったい私たちの体はどうなっちゃったんでしょう…」
そうつぶやいた彼女は、天秤棒以外にも、台湾には懐かしさをおぼえるものがいっぱいあると言っていた。私も最近は、日本よりもほかのアジアの国で、「懐かしい日本」の記憶を呼び覚まされることが多い。アメリカで暮らすうちに記憶が曖昧になったのかもしれないが、匂いや肌感覚、幼い時に見覚えたようなものは、母国に行っても見つからない気がする。香港生まれの彼女も、そんな思いを抱いているようだった。小国ながら、「アジアの中のアジア」と形容されることが多い台湾。その理由が少し分かった気がした。
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