第32回 カリフォルニアのベストワインを一本選べと言われたら?
文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)
- 2015年9月5日
さて困った。日本を代表するワインのトッププロから、難しい依頼を受けてしまった。きっかけは、日本で行われるワイン品評会に、審査員として招聘されたこと。その際に、ワイン業界の権威といわれる某氏と夕食をすることになっており、同氏よりカリフォルニアから訪日する当方宛てに、こんなリクエストを頂いた。「日本人があまり知らない、ハイクオリティーワインを一本ご持参下さいますか?」と。
この依頼には3つの高いハードルがある。その1。「日本人があまり知らない」という点。この場合の「日本人」とは、世界を股にかけてワインの品評をされてきた依頼者の常識を前提にしているはずで、そこで自分なりに定義したのは、日本に輸入されていないワインであること。またパーカーポイント(PP)が高い「有名」ワインは外すことにした。その代わりに選んだのは、生産者が自ら栽培したブドウでワインを作るヨーロッパ的なヴィニョロン。こういうブドウ農家兼ワインメーカー(ヴィニョロン)は、カリフォルニア広しといえども、少数派で、生産量が少なく、地元のファンが買い上げてしまうので、外に出ることがない。
ハードルその2は「ハイクオリティー」。例えば、PPに代表される評論家やワイン雑誌が高得点を付けるワインは、確かに質は高いが、果実味とアルコール分も異常に高く、50代以上のアメリカ人や、素人に受ける重いワインばかりで、特徴がない。ましてやヨーロッパのワインをベースにワインの味覚を磨いてきた海外(日本も含む)のプロは、ワインメーカー(醸造責任者)の嗜好でワインの味を決めるニューワールド・スタイルよりも、その土地特有のブドウの出来映えをワインに反映するテロワールワインを好むのは必須だ。勿論、アメリカにもこういう作り手は多々存在するが、概して少数生産で希少だ 。
ハードルその3は、「一本」持参して下さいという依頼。ナパだけでも600件以上のワイナリーが存在するわけで、カリフォルニア全土に散らばる数千のワイナリーがつくる数万のワイン中から、一本だけを選ぶというのは至難の業だ。さて困った…と、悩みながら上記の3条件を満たすワインを並べてみると、結局は自分の好きなエレガント系ワインばかりが並んでいるのだ。それらのワインに共通するのは、家族経営で、畑の平均が10エーカー程(これが、畑の隅から隅まで目が行き届く、人間の限界かもしれない)生産量もせいぜい千ケース(一ケース12本)というもの。
悩んだ挙げ句、選んだのは赤と白が一本ずつ。赤は、ナパで1937年より三代に渡りジンファンデルの古木から美しいワインを作り続けてきたロバート・ビアリ(Robert Biale)が単一畑のブドウで作るワイン。候補はいくつかあったが、敢えてカリフォルニア独特のブドウであるジンファンデルに固執した。白は、ナパ・バレー内ハウエル・マウンテンの新興ワイナリー、アーケンストン(Arkenstone)が作るボルドー・ホワイト。山頂の自社畑で作るソービニョンブランとセミヨンをブレンドし、新樽で寝かせた複雑なワインだ。その他にもカリフォルニアワインの若きホープ、アーノ・ロバーツ(Arnot-Roberts)のテロワールワインや、リトライ(Littorai)のテッド・レモンが作るブルゴーニュ仕立ての古酒も持って行きたいし、珍しい品種を作る農家のワインも…と、今でも悩んでいる。
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