第36回 地球温暖化がワイン業界にもたらす異変とは?

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

温暖化の恩恵を受けるシャンパーニュの畑Photo © Yuki Saito

温暖化の恩恵を受けるシャンパーニュの畑
Photo © Yuki Saito


 

地球温暖化セミナーPhoto © Yuki Saito

地球温暖化セミナー
Photo © Yuki Saito

 先日サンフランシスコで開かれた地球温暖化セミナーに出席してきた。気候の異変がこれからの世界、そしてワイン業界にもたらす影響は、計り知れない。19世紀末の産業革命以来、石炭石油などCO2を大量に消費するライフスタイルが世界に蔓延し、排気ガスの排出量に歯止めがかからない。冷暖房、車、そして使い捨て消費社会はそう簡単には、改善しそうもない。
 
 オゾン層の破壊による温暖化、エルニーニョなどの異変が引き起こす世界的な天候不順、氷河の融解による海面上昇などを鑑みるに、今まで世界の中心にあったワイン地域が、数十年後に存在できるかという懸念がある。

 とはいえ、温暖化に恩恵を受けている土地も、多々ある。例えば、気温が低く、ブドウの完熟が難しいドイツやシャンパーニュ、ボルドーなどで、この10年間かつてない程安定した好ヴィンテージが続いている。逆に温暖なカリフォルニアや南米、オーストラリアや南仏、スペインなどでは、気温の上昇でブドウが熟成しすぎて糖度が上がり、15%などという高アルコールワインが続出する始末。

 温暖化は、今までその土地に存在しなかった新しいペストやブドウの病気の発生も引き起こす。昨年はフランスを始め、ヨーロッパ各地で「スズキ」という名の小バエが大量発生。ブドウに甚大な被害を及ぼし、現地人が首を傾げた。湿度が高い地域では、高温は大量のカビを発生させ、ブドウを腐らせてしまう。また、長期的な海水の上昇で、良質のブドウが生育し易い沿岸部のブドウ地域が縮小する恐れもある。

 とはいえ、ワイン業界も手をこまねいているわけではない。既に、10年20年後を見越して、現在植えているブドウ品種が育たなくなるシナリオを描き、より暖かい地域で育つ品種への転換も想定している。つまりナパバレーでは寒いボルドー品種のカベルネやメルローではなく、南仏ローヌのグレナッシュやカリニャンを植えるようになるであろうとの議論があり、今まで寒すぎてブドウ栽培に適さなかったスカンジナビアなどが、ブドウ栽培の中心になるとも。

ナパのカベルネ畑にてPhoto © Yuki Saito

ナパのカベルネ畑にて
Photo © Yuki Saito

 もっとも、ナパやボルドーなど世界を代表するブドウ地域が、キャッシュクロップ(カベルネ)をそんなに簡単に諦めるはずもなく、台木(ブドウの根の部分)や新たなクローンの開発に取り組んでおり、最終的には現在の法律では許容されていない遺伝子組み換えをも視野にいれているはずである。

 業界としても、CO2の自主規制に乗り出しており、例えばシャンパーニュ地方では、あの重たいシャンパーニュ用の瓶を軽量化して、運搬に必要なガソリンを節約することで、環境改善を試みたり、ナパやソノマでも自然環境保護を前提としたオーガニック農法などのプロモーションに余念がない。もっとも、「オーガニック」などと言っても、単にマーケティング上の「売り文句さ」という辛口の意見も多々あるが。

 ここ数年、世界各地のブドウ農家やワインメーカーを訪問して来たが、必ず上がる話題は「地球温暖化によるビジネスへの影響と対策」。化学やテクノロジーの進歩が、自然環境の変化を克服する日は来るのか。まだまだ、先が見えない。
 

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  2. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  3. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  5. 私たちは習慣や文化の違いから思わぬトラブルに巻き込まれることがあり、当事務所も多種多様なお...
  6. カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキン...
  7. 2023年12月8日

    アドベンチャー
    山の中の野花 今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化...
  8. 2023年12月6日

    再度、留学のススメ
    名古屋駅でホストファミリーと涙の別れ(写真提供:名古屋市) 以前に、たとえ短期であっても海外...
ページ上部へ戻る