第36回 地球温暖化がワイン業界にもたらす異変とは?
文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)
- 2015年12月21日
先日サンフランシスコで開かれた地球温暖化セミナーに出席してきた。気候の異変がこれからの世界、そしてワイン業界にもたらす影響は、計り知れない。19世紀末の産業革命以来、石炭石油などCO2を大量に消費するライフスタイルが世界に蔓延し、排気ガスの排出量に歯止めがかからない。冷暖房、車、そして使い捨て消費社会はそう簡単には、改善しそうもない。
オゾン層の破壊による温暖化、エルニーニョなどの異変が引き起こす世界的な天候不順、氷河の融解による海面上昇などを鑑みるに、今まで世界の中心にあったワイン地域が、数十年後に存在できるかという懸念がある。
とはいえ、温暖化に恩恵を受けている土地も、多々ある。例えば、気温が低く、ブドウの完熟が難しいドイツやシャンパーニュ、ボルドーなどで、この10年間かつてない程安定した好ヴィンテージが続いている。逆に温暖なカリフォルニアや南米、オーストラリアや南仏、スペインなどでは、気温の上昇でブドウが熟成しすぎて糖度が上がり、15%などという高アルコールワインが続出する始末。
温暖化は、今までその土地に存在しなかった新しいペストやブドウの病気の発生も引き起こす。昨年はフランスを始め、ヨーロッパ各地で「スズキ」という名の小バエが大量発生。ブドウに甚大な被害を及ぼし、現地人が首を傾げた。湿度が高い地域では、高温は大量のカビを発生させ、ブドウを腐らせてしまう。また、長期的な海水の上昇で、良質のブドウが生育し易い沿岸部のブドウ地域が縮小する恐れもある。
とはいえ、ワイン業界も手をこまねいているわけではない。既に、10年20年後を見越して、現在植えているブドウ品種が育たなくなるシナリオを描き、より暖かい地域で育つ品種への転換も想定している。つまりナパバレーでは寒いボルドー品種のカベルネやメルローではなく、南仏ローヌのグレナッシュやカリニャンを植えるようになるであろうとの議論があり、今まで寒すぎてブドウ栽培に適さなかったスカンジナビアなどが、ブドウ栽培の中心になるとも。
もっとも、ナパやボルドーなど世界を代表するブドウ地域が、キャッシュクロップ(カベルネ)をそんなに簡単に諦めるはずもなく、台木(ブドウの根の部分)や新たなクローンの開発に取り組んでおり、最終的には現在の法律では許容されていない遺伝子組み換えをも視野にいれているはずである。
業界としても、CO2の自主規制に乗り出しており、例えばシャンパーニュ地方では、あの重たいシャンパーニュ用の瓶を軽量化して、運搬に必要なガソリンを節約することで、環境改善を試みたり、ナパやソノマでも自然環境保護を前提としたオーガニック農法などのプロモーションに余念がない。もっとも、「オーガニック」などと言っても、単にマーケティング上の「売り文句さ」という辛口の意見も多々あるが。
ここ数年、世界各地のブドウ農家やワインメーカーを訪問して来たが、必ず上がる話題は「地球温暖化によるビジネスへの影響と対策」。化学やテクノロジーの進歩が、自然環境の変化を克服する日は来るのか。まだまだ、先が見えない。
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