ウィル・スミス、渾身のドラマ「Concussion」(12月25日公開)
文/はせがわいずみ(Text by Izumi Hasegawa)
- 2016年1月6日
2002年、アメリカン・フットボールのピッツバーグ・スティーラーズのスター選手だったマイク・ウェブスターが自家用トラックの中で死んでいるのが見つかる。検死解剖を担当したベネット・オマル医師は、ウェブスターの脳細胞に損傷があったことを発見する。その後、数年に渡り、アメフト選手の自殺が相次ぐ。練習や試合で頻繁に受けた脳への打撃や脳しんとうが、慢性外傷性脳症を発症させ、年月が経ってから錯乱や抑うつ状態などを引き起こし、自殺に結びついたのだった。この因果関係に気づいたオマル医師はアメフトと慢性外傷性脳症についての論文を発表。しかし、それは、巨額の損失と衰退を恐れて、関係を隠蔽してきたNFL(全米フットボールリーグ)という巨人に挑む戦いの幕開けでもあった。
実話の映画化となる本作は、ベネット・オマル医師の半生を描いたドラマ。ナイジェリアからアメリカに渡り、優秀な法医解剖医となったオマルをウィル・スミスが丁寧に演じているのが印象的だ。共演陣の放つ存在感とキャラクター描写も良かった。特にアルバート・ブルックス扮するオマルの上司の敬意と友情の滲み出る演技には感服した。
オマルの持つこだわりや孤独感、アメリカン・ドリーム、偏見などを細かく描写したのは、元ジャーナリストのピーター・ランデスマン監督。単純で明るいサクセス・ストーリーにせず、さまざまな背景や感情を織り込んでいるのは、製作総指揮としてイギリス人の巨匠監督リドリー・スコットが介入しているからかもしれない。
また、NFLに反旗を翻した元チーム担当医を登場させ、危険の可能性を当事者に知らせずにいたNFLの倫理観を問いかけるストーリーも絡ませて、社会派ドラマとしての様相も持っているのが興味深い。
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