ベン・アフレック
演技よりも脚本家・監督としての
才能を認められたスター俳優

文/はせがわいずみ(Text by Izumi Hasegawa)

Photo by Izumi Hasegawa / HollywoodNewsWire.co

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 「Good Will Hunting」で脚本家としてオスカーを受賞した後、スター俳優として注目されるようになったベン・アフレック。その後、監督業にも進出し、監督・主演・製作した映画「Argo」でアカデミー賞作品賞を受賞した。物心ついた時から俳優になりたいと思っていた彼は、子役として芸能界入りしたベテラン俳優。しかし、俳優としてのキャリアが長い割には、筆者は常々思っているが、演技はイマイチ。その証拠に、あれほど映画賞レースを賑わした「Argo」で演技を認められることもなければ、これまでも演技賞に輝いたりノミネートされたりしたことがほとんどない。キアヌ・リーブス同様、イケ面だけど表情が乏しく、セリフも説得性がない。親友のマット・デイモンに比べると才能は一目瞭然だ。しかし、ベンの監督として、また、プロデューサーとしての力量は素晴らしく、筆者は21世紀を代表する監督の一人にリストアップしている。

そんなベンが俳優としてやっとハマリ役に出会ったと筆者が思ったのが、新作「The Accountant」の主人公クリスチャン。サヴァン症候群で数字に関して並外れた才能を示す彼は、地味な会計士の顔と、悪に対して容赦しない殺人鬼の顔を持っている。自閉症ゆえに他人とのコミュニケーションがうまくないので、乏しい表情や感情のないセリフの方が説得力がある。そして、193センチの長身がアクション・シーンでは映えること!

本作の記者会見で、役作りについて話す彼は、父親としての顔も垣間見せた。

最も複雑で難しい役

「クリスチャンは、これまで演じた中で最も複雑なキャラで挑戦しがいのある役だった。しかもたくさんのリサーチが必要だった。リアルなキャラクターを作りたかったから、自閉症の人たちに直接会って様子を観察し、日々の暮らしや好きな映画などを聞いた。クリスチャンの人物像を複雑にすることでリアリティーが増すから、会った人たちから得たものを取り入れたよ。彼らは、実際に複雑な状況で複雑な生活・人生を送っている。生活に制限がある人もいれば、他の人にとって難しいことが簡単にできる能力を持っている人もいる。そして、アスペルガー症候群の人は機知に富んでいて、ユーモアたっぷりだってことも分かった。そういう要素もクリスチャンの中に入れたかった。とにかく、人それぞれ違う能力を持っているってことが分かったから、クリスチャンは絶対に複雑なキャラクターにすべきだって思ったんだ。彼は他人と心を通わしたいという本能はあるけど、それがうまくできない。そして、それを治すことはできない。女の子を前にして、腕を回してキスをするということができない。別のやり方で心を通わそうとする。それこそがまさに複雑で興味深いと思ったんだ」

一番心を痛める要素

ベンは離婚調停中の妻との間に4歳、7歳、10歳の子どもがいる。子どもたちとクリスチャンの症状について話したのだろうか。

「子どもたちは理解できる年頃だから、自閉症やアスペルガー症候群について話したよ。ただ、彼女たちの興味はレーティングだけで、『私たちが観れる映画にはいつ出るの?』って聞くだけだった(笑)。だから、『お前たちが25歳になったら観られるよ』って言うんだ(笑)」

親としての話題が出たところで、本作での父子関係について聞いてみた。クリスチャンの父親は、息子を「オレのルール」に従って育てる。親として、ベンは子育てにどんな考えを持っているのだろうか。

「本作の父子関係は、一番心を痛める要素だよね。僕は親として毎日、さまざまなジレンマに直面する。子供を育てるのに正しい道はどれだ? って考える。選択を迫られる瞬間の連続だ。当然のごとく僕らは間違えたり、失敗をしたりするけど、とにかくベストを尽くそうとする。自分の子供が傷つきやすく、弱い立場にいると知って恐怖を感じ、自分自身も弱い立場にいることを悟る。だから、この映画での父親の選択が分かるんだ。親でいるのは大変だよ」
セレブでも親としての悩みは同じだった。

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はせがわいずみ (Izumi Hasegawa)

はせがわいずみ (Izumi Hasegawa)

ライタープロフィール

島根県松江市出身。映画ジャーナリスト・神主。NHKなどのアナウンサーを経て、映画・TV記者に。取材したセレブはのべ5000人以上。スターのインタビューや写真を全世界の媒体に配信する通信社Hollywood News Wire Inc. を経営 (一部をWhatsUpHollywood.comに掲載。動画インタビューはUTBでも放送中!!)。ハリウッドと日本の架け橋としてHollywood-PRを立ち上げ、PR・マーケティング、コンサルタントとしても活動中。
実家が神社(出世稲荷神社)なので神主の資格を持つ。島根県ふるさと親善大使「遣島使」。著書:TV『24』公式解説本『メイキング・オブ 24-TWENTY FOUR-』(竹書房)

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