第58回 アメリカの家庭科?

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

この日のメニューはコーンブレッドとチリスープ
Photo © Keiko Fukuda

 ニナは毎週木曜に高校から料理の写真をラインで送ってくる。ある時はコーンブレッドだったり、ある時はピザだったり、また別の時はチキンのアルフレードパスタだったりする。それらは彼女が取っている料理のクラスで作ったものだ。木曜はランチタイムの前に料理クラスがあるので、決まってお弁当は食べずに持って帰ってくる。学習しない私は、そのことを毎週忘れてお弁当を持たせる。そしてまた、お弁当は手付かずのまま帰ってくる、その繰り返し。アクシデントさえ起こらなければ、クラスで作る料理は美味しいらしい。

料理クラスでは4、5人のチームに分かれて作業に当たる。ピザの時はもちろん生地から練ってオーブンで焼く。しかし、アルフレードパスタの時はチームによっては缶のパスタソースを持参した子もいたそうだ。それで許されるのか? ニナのチームは生クリームからソースを作った。しかし、ある男の子がレシピ通りに生クリームを混ぜなかったことで悲劇が起こった。出来上がりは惨憺たる代物となり、見た目だけは美味しそうなパスタの写真をラインしてきた後で、「まずい」とコメントが付いていた。

最初、ニナが「カリナリーのクラスを取る」と言った時、その英語のサウンドに惑わされて「なんてお洒落なの! 高校で料理が学べるなんて」と感激したが、冷静に考えれば、日本で言うところの家庭科ではないか。日本でのはるか遠い記憶を辿ると、小学校の高学年くらいに、味噌汁や魚のムニエル、粉ふきいもなどをクラスメートと作ったことがある。今でも日本の学校では家庭科で調理の実習があるのだろうか? ちなみに中学か高校では、女子は家庭科、男子は技術とクラスが分かれていた。今はもっとジェンダーフリーになっているはずだと信じる。

予算カットの犠牲に

長男のノアの時は他に選択しなければならない科目があり、料理好きなのにクラスは取れなかった。一方のニナは家ではほとんど料理をしないのに、料理のクラスを取ることができた。そして、その途端に家庭での行動が変化した。率先して手伝いたいと言い出すようになったこと、さらに食材を切る時はまず野菜を切って、それから肉や魚を切るようにと衛生面での留意事項を強調、食材に触る前の手洗いをしたかを私に確認するようになった(残念なことに私は信用されていない)

このように、中学や高校では実生活に活かせる授業をもっと充実させるべきではないかと思う。例えば、掃除や洗濯の仕方など。そう言えば、日本の学校では皆で教室を掃除する。しかし、アメリカではご存知のように、掃除は生徒の領分ではない。日本の学校に体験入学したアメリカ育ちの子どもたちに「日本の学校で何が印象的だった?」と聞くと、「皆で一緒に掃除することが新鮮で楽しかった」と答えることがある。

そんなことをニナと話していたら、「昔は料理だけじゃなくてソーイング(裁縫)も高校で教えていたんだって。でも、最近は予算がなくてどんどん教える内容が減っていると先生が言ってた。だからせめて料理のクラスがなくならないように、寄付をお願いしますって」と。落とし所はそこなのだ。予算のカットで、昔のようにアメリカの公立校では授業が次々にカット。小学校では音楽もなければ美術もなかった。体育は風前のともしびだった。中学では体育と音楽がやっと残っていた。

そして、私はニナに寄付金を託した。社会に出た時には、科学や数学の難しい学習内容は意外と役に立たない(あくまで個人の見解)。しかし、料理は必要だ。アメリカの学校に残してほしいと願っている。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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