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海外教育Navi 第62回
〜特別支援が必要な子どもを海外赴任に連れて行く?日本に残す?〜〈後編〉
記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)
- 2020年10月15日
海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。
Q.特別支援の必要な子どもを連れてアメリカに赴任しますが、現地校に通うことになります。父親だけが赴任して母子は日本にとどまるべきでしょうか。
前回のコラムでは、アメリカの特別支援教育についてご説明しました(前回記事へ)。今回は、期待できる効果とサポート体制についてお話しします。
②英語で支援サービスを受ける効果
現地語による支援サービス
日本語を話す専門家がいるごく稀な地域は別として、通常は英語で支援サービスが提供されます。
学校によっては、「この子は日本から来たばかりで、まだ英語が不十分だから」と特別支援教育を始めることに消極的なところもあるかもしれません。しかし、そんな用心深さがお子さんの教育を受ける権利を阻んでしまってはいけません。
そのためにも、日本で特別な支援を受けていた証明を持参できれば、適切な支援介入を得られる近道になります。
現地語で効果的なのか
「現地語がわからなくても効果はあるのか」という疑問は当然です。
アメリカの学校では「特別支援教育の専門教師が科学的なメソッドで指導する」という大きなメリットがあります。言語療法士、作業療法士など専門職のスタッフによるセラピーを学校内で受けられます。そのような専門性の高い支援を得られるというのは魅力です。
またアメリカの学校では、障害の有無にかかわらず、学習にiPadのようなデバイスを使用する機会が多くあります。読み・書き・計算などでつまずきがあるお子さんにはデバイスの使用が促されます。手書きでのノート取りや計算、印刷された教科書の読みが強調される日本の学校で苦しんできたお子さんは、デバイスを使ってそのような苦労から解放され、より高次の学習にエネルギーを注げるようになります。
多くの子どもたちが外国語で教育を受けるというハンディを負いながらも、英語を習得しつつ、こういった日本ではなかなか受けられない支援サービスや合理的配慮の恩恵を享受しています。
ただし、新しい言語の習得には通常、日常会話で2〜3年、学習で力を十分に発揮できるまでには5〜7年かかるといわれています。駐在員家庭の場合、そのほとんどが滞在は数年間と限られていますから、その間に得られるアメリカの特別支援教育の恩恵の大きさと、日本に残った場合のメリットを天秤にかけて判断する必要もありますね。
ただ、アメリカに来て、日本語でも言語を発することのない重度の自閉症のお子さんがスーパーマーケットで就労訓練を受けるまでに至ったこともありましたし、日本では支援学級に在籍していた児童が通常の学級で力を発揮した例も少なくありません。
子どもの個々の状況によって支援の効果はさまざまなので、どんな障害であれば問題が少ないとか、どのくらいの障害であれば問題が大きいということも、端的にはいい切れないのが実情です。
③家族のサポート体制
赴任に際してご家族がいっしょに行けるかどうかは、お子さんの教育以外にも、配偶者の仕事、同居家族のケアなど、それぞれのご家庭の事情があり、簡単には決められないことでしょう。
しかし、もし学校教育だけの理由で母子だけが日本に残られる場合は、家族のあり方が変化することになりますので、残されたお母さんやお子さんへの心理的・物理的なサポート体制があるかどうかも検討する必要があります。
いままでご両親が互いに支え合い、片方の感情がエスカレートしすぎれば片方がなだめてきたこともあるでしょう。それがなくなった場合の心理的サポートはお子さんを守るためにも確保できるでしょうか。
いずれにしろ、いままでの家族の形態が変わる場合は、お子さんに大きな影響を及ぼすので配慮したいものです。
アメリカへの赴任をたんに怖がったり不安がったりする必要はありません。メリットもたくさんあります。ご家庭の事情を多角的に検討し、ベストな選択をしてください。
ニューヨーク日本人教育審議会・教育文化交流センター教育相談員
バーンズ 亀山 静子
ニューヨーク州公認スクールサイコロジスト。現地の教育委員会を通じ、幼稚園から高校まで現地校・日本人学校を問わず家庭で日本語を話す子どもの発達・教育・適応に関する仕事に携わる。おもに心理教育診断査定、学校のスタッフや保護者とのコンサルテーション、子どもの指導やカウンセリングなどを行う。
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