物流を制すものはビジネスを制すか?
第26回
- 2019年11月26日
北米運賃同盟がその拘束力を失い、その後を引き継いだTSA(太平洋航路安定化協議会)ではあるが、団体であるがゆえにFMC(米国連邦海事委員会)の監視も強く、時に談合に見られるなど拘束力は徐々になくなっていく。自由競争の荒波の中で、2018年2月8日、TSAは解散、消滅する。海運企業群は自身が属するアライアンスの中で独自色を出しつつ、自身のサービスにあった運賃を設定し、顧客にアプローチすることになる。
運賃同盟やTSAのように、ある程度運賃の指標を打ち出す期間がなくなったことで、海運各社はみずからの原価計算、売上目標などを基本に自社の運賃を設定しなくてはならなくなり、ますます競争は激化していく。
そうした動きの中で、2016年8月31日、業界に衝撃が走った。韓国の大手海運会社である韓進海運が経営破綻したのである。突然の破綻でターミナル費用の回収のめどの立たない不安からターミナルが寄港を拒否。港に船を寄せることのできない船舶が世界中で発生し、波間に漂う大型のコンテナ船が話題になった。
破綻の理由はさまざまに挙げられるが、基本的には経営の安定化を確保できず、融資に頼り、結果、融資を受けられずに資金繰りに窮したというのが事実のようだ。私自身、数年間であるが、韓進海運の営業の一員として働いた経験があり、友人や知人も勤務していたことで、このニュースは非常にショックを受けたものだ。
かつて韓国の海運業界は韓国郵船ともいわれた政府系の色の濃い大韓船洲(コリアン・シッピング)やチョーヤンシッピングなどが北米、欧州を中心に大きく営業を展開していた。しかし、政治権力との癒着などが発覚し、大韓船洲が破綻、それを引き継いだのが、大韓航空を親会社にもつ韓進海運である。
ブルーを基調にした韓進海運の新しいコンテナ船は、働く者にとって大きな飛躍の象徴のように映ったものだ。新造船である HANJIN NEWYORKを顧客とともに見学に行き、案内された船長室で船長に歓迎されたことや、デッキから見下ろす看板の広さ、大きさに驚いたものだった。
韓進海運は次々に新造船を、特に太平洋航路、欧州航路に投入し、瓦解後の運賃同盟の荷主の獲得を図っていった。営業に属するものとしては、運賃もある程度自由裁量で決められ、新造船ということもあり、大きく業績、実績を伸ばすことができたのを覚えている。
当時(1980年後半)は1986年の米国海事法の改定後でNVOCCが次々に誕生し、集荷、船積みを各社が競っていた。ご多分に洩れず、私も多くのNVOCCを担当させてもらった。ただ、当時、私が尊敬する上司で部長であったY氏からは、貨物の詳細を把握するにはやはりダイレクトシッパーの情報をしっかりと取っていかないと、NVOCCがいつ他社に乗り換えるか分からないとの指導もあり、積極的にメーカーを当たったものだ。
当時はまだまだ日本の企業、特に家電品や事務機器の企業の輸出力は強く、海運会社にとっては欠くことのできない顧客が多かった。松下電気やシャープ、三洋などの関西弱電3社や東芝、ソニー、NECといった関東の企業などに競って営業をかけたものだ。
そんななか、とある事務機器の会社に訪問して自社の案内をさせてもらえる機会を得た。担当者に、当時はあまり船社としては行っていないドアデリバリーの料金を提示させてもらった。担当者は非常に興味を持ち、検討を約束してくれた。担当者からは乙仲を通じて船積み予約を入れるとの返事をもらった。
ダイレクトシッパーからの、しかも大きな事務機器の会社からの受注ということで船積みの予約を待った。しかし、待てど暮せど予約が入ってこない。時期を見て再度その会社を訪問し、担当者と話をすると、彼はすでに乙仲に指示をしているとのことだった。何かおかしいと思いつつ、担当者が指示をしてくれている以上無理も言えず、その場を去った。その後も予約が入る気配はなかった。
もう一度その担当者にアポをいれ、話を聞きに行くことになった。その会社の会議室で待つこと10分、関連の書類を抱えた担当者が会議室に入ってきて書類を見せてもらって驚いた。シッパーとキャリアーの間に入っているNVOCCが担当者の意向を無視して、ほかの船社に船積みを続けていることが分かったのだ。
このことがきっかけでそのNVOCCとの間で大変な騒ぎが起きるのであるが、そのことは次回に譲る。
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