物流を制すものはビジネスを制すか? 
第28回

中国の一地方都市である武漢に端を発したコロナウイルスの感染拡大は、瞬く間に世界に広がり、全世界で160万人(4月11日現在)以上の人が感染確認され、10万人以上の人がその尊い命を失っている。しかもその拡大の勢いはいまだに衰えを見せていない。

ここアメリカでもニューヨークやロサンゼルスなど大都市を中心に拡大が続いていて、感染者数、死者数ともに米国は世界で一番被害の多い国になっている。コロナウイルスのことは、各種メディアでもさまざまに報道がなされているので、このコラムではコロナウイルスがロサンゼルスの物流全般に与えている影響を考察したい。

1月下旬に前述の武漢でコロナウイルスの感染拡大が発表されると、中国政府はいち早く武漢市を封鎖、拡大を抑え込む手段を取った。同時に旧正月で帰省する人に対しても、帰省からの戻りを遅らすことや休みを延長して人の大きな動きを止め、拡大防止に努めた。人の動きの制限は同時に物の動きの制限でもあった。武漢だけでなく、感染の兆候の見られる都市や、人の動きの大きな大都市に対して人の往来を制限した。

その結果、大都市、中都市を問わず生産活動も鈍化し、サプラチェーンに齟齬を来すようになった。

毎年、旧正月前には在庫を減らす意味で出荷が旺盛となり、その後、旧正月が明けて生産が開始されるまでのほぼ1カ月間は中国からの製品の出荷は少ない。そのため、中国に寄港する外航海運会社は中国の主要港を抜港(船を港に寄せない)するのが一般的である。しかし今年は、旧正月が明けてからも都市圏の人の動きは制限された。多くの企業が自宅待機や外出制限を余儀なくされ、生産活動がほとんど止まった状態となったのだ。

中国で生産された部品などを輸入している日本の企業にも、大きな影響が出たのはこの時期だ。完成車のほとんどを米国や海外に輸出しているといわれる福岡県苅田市にある日産九州工場などは、中国製の部品が入ってこないことから一時生産ラインを止める事態となった。

旧正月に続く都市封鎖や工場の生産停止から、中国出しの貨物の増産が進まず、輸出する製品が少ないことから多くの中国寄港の外航船社が中国主要港抜港の動きを継続した。コスコやOOCLなど中国、香港を起点に集荷貨物を多く取り扱うグランド・アライアンスといわれる船社グループは、2月下旬から4月初旬までの期間に6割近いサービスの減便・欠便を実施。コンテナ船の減便・欠便を受け、受け入れ側であるロサンゼルス・ロングビーチの両港も、各ターミナルがオペレーションの調整を行っている。

邦船3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)のコンテナ部門統合でできたONE(オーシャン・ネットワーク・エキスプレス)社が多く入港するユーセンターミナル(YTI)は、減便の受け入れ期間のオペレーションは週5日のうち2日だけと限定したり、ほかのターミナルでも午前の運営だけにしたりと欠便対応を行っている。

入港してくる船が減ってきているため、輸出するコンテナの取り扱いもさまざまな制限を受けることになり、コンテナのピックアップ場所とコンテナの搬入先の違いからドレージの追加費用が発生。荷主に請求できずに困るトラック会社も増えている。

ロサンゼルス、ロングビーチのコンテナ港には空のコンテナが段積みされると同時に輸入の実入りコンテナも引き取りが減り滞留を始めている

中国との貿易上の接点の多いここロサンゼルスではあるが、コロナウイルスの影響で中国からのコンテナが大幅に減少している。2月は22.3%の減少であったが、3月はさらに大幅な減少が予想されている。

4月に入り、中国では都市封鎖や徹底した外出制限、地域挙げての除菌などで徐々に感染のスピードが低下、都市の生産活動も少しずつ軌道に乗り始めている。経済の立て直しを急務として工場の生産開始、都市圏での経済活動の再開、そして中国で生産された商品が米国向けに出荷され始めた。

中国の復興と時を合わせたように起きているのが、冒頭述べた米国での想像を絶する感染拡大である。3月の第2週、第3週にロサンゼルス、ニューヨークなどが非常事態を宣言し、外出禁止令を発令。他の州も追随し、全米の消費、経済活動は完全に停止する事態となっている。ロサンゼルス港やロングビーチ港のみならず、全米の主要コンテナ港には現在、旧正月前に渡ってきた中国からの貨物の空となったコンテナが滞留し、段積み状態となっている。

同時に外出禁止令を受け、荷主の倉庫はクローズされ、輸入したコンテナは引き取られることなく港に滞留し始めている。海運会社も減便・欠便を継続している。そのため、空のコンテナと輸入のコンテナで港は一杯になってきている。多くの荷主は引き取ることができないコンテナにかかる保管料や、混雑によってアップしているトラックのドレージ費用など、費用の増加に頭を抱えている。

こうした状況を少しでも緩和しようと一部大手海運会社が動き出した。スイスの海運企業MSCは、2万3000TEU積みという超巨大コンテナ船を数隻、ロサンゼルス、ロングビーチに寄せ、空のコンテナのアジアへの戻しをサポートしている。ロサンゼルス市のエリック・ガルセッティ市長は物流の安定化とマスクや医療用具の確保、迅速な配送を遂行するため、ロサンゼルス港湾局長であるジーン・セリカ氏を同市の物流最高責任者に任命。港湾、税関、医薬局、病院というライフラインを守る体制を確立しょうとしている。

すでに港湾局では、医薬品やマスクなどの通関やコンテナの引き取りを最優先として医療体制のサポートを行っている。さらに米国海軍が誇る最新鋭の病院船、マーシーがロサンゼルス港に入港。コロナ感染の受け入れ基地になるという。

アジアとの貿易の玄関口、物流の一大拠点であるロサンゼルス。米国経済の貿易の生命線を担うロサンゼルスの医療品を含めた物流の迅速化が、コロナ対策の重要な役務を担っていることだけは確かだ。

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赤岩寛隆 (Hirotaka Akaiwa)

赤岩寛隆 (Hirotaka Akaiwa)

ライタープロフィール

外航海運会社で20年以上にわたり北米定期航路の集荷営業に従事。北米駐在を経て2013年9月、北米唯一の海運、港湾、物流情報発信会社SHIPFANを設立。
「日本海事新聞」紙上に「ロサンゼルス便り」、 ロサンゼルスのフリーペーパーに「物流時報」を定期掲載するほか、物流コンサルティング、物流セミナー、港湾ツアーの開催、輸出入のマッチング業務を手がけている。ロサンゼルス港に「コンテナ物流研究所」を開設。

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