物流を制すものはビジネスを制すか?
第25回
- 2019年9月25日
北米同盟消滅後の同航路
米国海運法の改定にともない規制緩和が大幅に進み、海運各社は独自の運賃設定をもとに集荷を進めていくことになった。結果、欧州運賃同盟と双璧を成していた北米運賃同盟も弱体化、解散の憂き目をみた。運賃の無法地帯化を避けたい海運各社は従来の同盟組織の枠を外し、自分たちで自社を守っていくための組織を新たに模索し、設立した。
TSA(トランスパシフィック・スタビライゼーション・アグリーメント=太平洋航路安定協議会)と呼ばれる任意の団体が1990年後半に設立され、同盟、盟外の枠を超えて15社の企業が参加。
CHINA SHIPPING
CMA-CGM
COSCO
EVERGREEN
HANJIN
HAPAG- LLOYD
HYUNDAI
KL
MAERSK
MSC
NYK
OOCL
YML
ZIM
業界の合従連衡の激しさを物語るように、すでに経営破綻や統合によって消滅した会社もある。また、各企業間同士がコンソーシアムを組む動きも活発になっていった。
1995年、日本郵船を中心にハパッグ、NOL、P&Oの4社で構成されるグランド・アライアンス、商船三井を中心にネドロイド、APL、OOCLがザ・グローバル・アライアンスを結成。
翌年の1996年には、川崎汽船がコスコ、陽明と3社CKYを結成、邦船3社を中心に3つのアライアンスが業界の主導権を握るべく覇権争いに参入した。
しかし、その後中国経済の発展にともない、中国から欧州への輸出が活発になるにつれ、欧州系の船社が台頭。その代表格がマースクラインであり、MSCである。
マースクもMSCも従来は単独志向の強い会社ではあるが、業界の荒波を乗り越えるにはコンテナ取り扱い1位と2位がタッグを組むことで業界の主導権を手中に収めようとした。2015年のことである。2Mとしてほかを圧倒する規模のアライアンスの出現である。
こうしたアライアンスの力が増すことで、TSAの効力も徐々に消滅していくのである。
話は前後するが、1998年、中国出しの貨物の需要が強く、北米向けのスペースが各社逼迫した時に、TSAメンバーは低迷する海上運賃の大幅な見直しを模索。北米向けサービス配船会社が5月のサービス・コントラクトを前に、大幅な運賃の値上げを荷主に通告した。
しかも、TSAのメンバーの代表名で値上げを通告したことから、荷主団体が猛反発。米国連邦海事局に提訴した。TSA全体で値上げをするのは違法であるとする趣旨の申し出であった。
連邦海事局のコメントもあり、業界全体としての値上げの通告はなくなったが、船社独自で値上げをすることは問題ないということで各社それぞれが自社で設定した値上げ幅を交渉の席で荷主に提示するのが一般的となった。
また、翌年の1999年には値上げだけでなく、ホリデーシーズン前に始まるピークシーズンには船舶のスペースがタイトになるということで、ピーク・シーズン・サーチャージの導入を荷主に通達した。
競争の激化から運賃がボトムまで下がっていた海運業界にとって、まさに画期的な年となる1998年、1999年、北米航路は溢れる貨物の対応に、船社も荷主もNVOCCも沸きに沸いた数年であった。運賃もボトムの時のほぼ倍に、また中国出しは船社の言い値で船積みが決まっていった。
北米航路の営業担当者が久しぶりに味わう短い春の陽光であった。
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