物流を制すものはビジネスを制すか? 
第23回

前回の最後にFMC(連邦海事委員会)への登録義務化のなかで生まれた「ミーツーファイリング」に触れた。詳しく述べる前に、北米運賃同盟の運賃設定の変遷を述べていきたい。

北米航路の確立

北米航路の運賃も、欧州運賃同盟のそれと同様、出発点はコモディティ別の運賃、すなわちコモディティ・レートと呼ばれる運賃であった。少量でもバリューの高いものには高額な運賃を、バリューが低くても数量がかさばるものには低運賃を設定していた。しかし、欧州航路はその歴史的な背景から、同盟設立後もアジアから欧州への安定的な貨物の荷動きにより、航路運営は比較的スムーズに行われていた。

一方、1900年初頭に設立された北米運賃同盟は、アジアから太平洋を渡って米国に輸送される貨物の絶対量が欧州と比較して少ないことから、当初はあまりうまく運営がされていたとはいえない。確かに日本から米国へは生糸を中心に繊維が大量に輸出されていたとはいえ、その数量は限定的であった。

アジア、特に日本から米国に貨物が本格的に動き始めるのは第二次世界大戦が終わってからであり、日本が経済の復興を最重要課題として米国の協力も得ながら、成長の軌道を描きはじめてから本格化する。

資源のない日本は世界中から原料を輸入し、製品を作り、世界に輸出する。いわゆる加工貿易の発展により、日本は徐々に経済力をつけていく。日本だけでなく、韓国や台湾なども戦後、政府主導で経済的な自立を遂げつつ、経済立国として貿易を強化していく。こうした流れを受け、アジアから米国への貨物の輸送は飛躍的に伸びていった。ようやく北米同盟がその存在感を高め始める。

コンテナ船の登場と海運法の改変

既報のように、運賃の設定はコモディティ・レートである。1961年にボナー法が制定され、
1)15%以内の二重運賃制の許容
2)同盟運賃表(タリフ)の届け出および公開の義務化

が法制化された。

二重運賃制とは、同盟に加入する荷主と未加入の荷主では同じ航路、同じコモディティでも運賃に違いがあり、同盟加入荷主への優遇制度である。同盟荷主は少しでも安い運賃を適用してもらうため、同盟に加入した。同盟荷主と同盟船社はますます関係が深くなり、運賃同盟加入船社にとっては利益を安定化させ、荷主をほかに回させない拘束力のある形態である。

しかし、欧州同盟との違いは欧州がクローズド(閉鎖的で非公開)であったことに対し、北米同盟はオープン(公開)を前提としていたため、情報が流れやすく、拘束力を維持するのは難しいとされた。

1956年、海上輸送に大きな変革の波が訪れる。コンテナ船の登場である。米国で始まったコンテナ船の流れはあっと言う間に世界に広がり、1960年代後半には、従来のばら積み不定期サービスからコンテナ定期船サービスに移行していく。運賃も従来のコモディティ・レートからコンテナのボックス・レートが主流になっていった。

この頃になると、同盟に加入しない非同盟(盟外)と呼ばれる船社の中にもコンテナ船隊を揃える企業が増えてくる。代表的な会社としては、エバー・グリーンや韓進海運などである。同盟船社は基本的に同盟運賃を適用するため、安い運賃が盟外船から提示されると、盟外船社を使用する同盟荷主も徐々に増えていった。

二重運賃制度も有効であるが、運賃が15%以上違ってくると同盟に固執する理由はなくなっていく。二重運賃制度は徐々に崩壊し、有名無実化されていった。

次の大きな波は、米国のレーガン大統領が掲げる規制緩和に伴い、海運法が大幅に改変された1984年のことである。
1)二重運賃制度の禁止
2)SCの導入
3)同盟によるSC締結制限の禁止

などが盛り込まれた。

この海運法の改変はまさに、北米運賃同盟を解散へと追い込む引き金を引く結果となるのである。

次号に続く。

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赤岩寛隆 (Hirotaka Akaiwa)

赤岩寛隆 (Hirotaka Akaiwa)

ライタープロフィール

外航海運会社で20年以上にわたり北米定期航路の集荷営業に従事。北米駐在を経て2013年9月、北米唯一の海運、港湾、物流情報発信会社SHIPFANを設立。
「日本海事新聞」紙上に「ロサンゼルス便り」、 ロサンゼルスのフリーペーパーに「物流時報」を定期掲載するほか、物流コンサルティング、物流セミナー、港湾ツアーの開催、輸出入のマッチング業務を手がけている。ロサンゼルス港に「コンテナ物流研究所」を開設。

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