物流を制すものはビジネスを制すか?
第24回
- 2019年8月29日
欧州海運運賃同盟とともに、海運業界の安定と栄華を誇ってきた北米海運運賃同盟。しかし、それも1984年の米国海事法の改定により規制は大きく緩和され、自由競争の速度は一段と早くなっていった。
既報のように二重性運賃の廃止にともない、同盟に加入する荷主へのアドバンテージは著しく低下し、盟外船へのシフトの加速度は増すばかりであった。同盟各社も荷主の貨物を一定数量確保するために、サービス・コントラクトを積極的に締結していった。サービス・コントラクトは、船社と荷主が一定の数量の船積みを約束する代わりに数量に応じた割安の運賃を享受できるもので、今でも北米航路では一般的な取り決めとして実施されている。
同盟に加入する荷主は同盟の複数の船社と交渉を行い、最適な運賃やサービスの提供を確保できる会社に船積み予約を行う。一方、盟外船社が本来単独配船を実施している会社が多いことから、単独で荷主と交渉する船社は多い。一般に同盟運賃の8掛けといわれる盟外の運賃は同盟志向の荷主からも受け入れられ、ますます盟外船へのシフトが進んでいった。
インディペンデント・アクションの登場と
北米運賃同盟の解散
同盟船社の積み込み比率が盟外船社のそれを下回り始めた頃、同盟船社の一部は起死回生の一手を打つのである。IAすなわちインディペンデント・アクションである。これは、同盟船社がある品目に対して単独で運賃を設定し、しかもサービス・コントラクトのように数量の拘束を受けない、まさに単独行動、単独運賃設定行動である。
これにより、同盟船社は特に大手荷主に対してAIを行使し、一定数量を確保していくのである。荷主の側もコントラクトに縛られることなく船積みができることから、AIを支持する荷主も徐々に増えていった。
しかし、このAIは同盟にとって両刃の剣であると同時に、同盟瓦解への引き金を引いたともいわれる愚策であった。本来、結束を持って成り立ってきた北米運賃同盟も、このAIという船社が単独で運賃設定をするということで結束も拘束もなくなり、ただ、運賃競争を強いる結果となったのである。このAI、インディペンデント・アクションそのものが、同盟をして解散に追いやる運賃政策であった。残念ながらAIの行使によって一部の船社に貨物は流れたが、結果として盟外船社と同じ土俵で戦わなくてはならない結果となった。
かつて、邦船中核6社といわれたなかで、郵船、三井、川崎を除く3社、山下新日本汽船、ジャパンライン、昭和海運は、同盟船社としての善戦も虚しく、盟外船社との運賃競争に破れ、姿を消していった。同時に北米海運運賃同盟もその機能を充分に生かすことができなくなり、有名無実化していく。ただ、運賃の無法状態は船社にとって、それが同盟であれ盟外であれ、決して有益なものではない。
そこで無実化となった北米同盟を引き継ぎ、航路の安定と各海運企業の経営効率化を進める団体としてTSA(Transpacific Stabilization Agreement)が発足した。TSAは東航、西航ともに存在し、東航はTSA、西航はWestbound Transpacific Stabilization Agreemnt(WTSA)として航路の安定に寄与した。TSA、WTSAともに運賃については拘束がなく、基本的にはサービス・コントラクトやAIの流れを受け、単独運賃設定を行い荷主を獲得していった。
同盟の流れを受けていることから同盟船社が多いが、協定の性格上、盟外船社も航路の安定と経営の効率化の視点から参加する企業もあり、当初は15社が参入した。こうして、1900年初頭に設立され北米航路の発展を支える運賃同盟であった北米海運運賃同盟は、静かにその役務を終え、解散となったのである。
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