日本人のPERFECTION(完全主義)はどこから来たの? -(後篇)
文/在米日本人フォーラム(Text by Japanese Forum USA)
- 2018年2月28日
日本は昔から資源が乏しい国と言われてきている。しかし、ここで実は資源はいくらでもある、と言ったら誰もが怪訝な顔をするに違いない。これは事実である。ここで言う資源とは「無駄」である。つまりこの無駄をなくすことにより時間と金を創生することができる。こう言われると反論する人は少ないだろう。
前回は生活の中で感じられたPERFECTIONについてお伝えしましたが今回はビジネス上でも特異にみられる日本人のPERFECTIONについて考えてみたいと思います。
3.仕事上の完全主義
皆さんの会社で、提案や稟議を上にあげるのに、どれくらい煮詰めたらOKしてもらえますか。例えば投資事業のFS (Feasibility Study) をするにも、もし100の要件があったとして、詰めることができるのは80くらいが精一杯でしょう。残りの20を決して無視する訳ではないのですが、いくらやっても詰めようがないのです。さて、あなたの会社では、その20を詰められない案件にGOを出してくれますか。日本の企業(特に大企業)の中には、完全主義がどかんと居座っていて、要件を完璧に詰められない案件を通さない場合が多いのではないでしょうか。
また上司の中には、自分のポジションの保全のため、あえてリスクを取らない人たちも少なくないでしょう。人によっては、これもあれもと100どころか120もの不要と思えるものまで詰めないと納得してくれないという経験をされていませんか。それは大企業病の一つなのですが、中小企業でも五十歩百歩だと思います。
日本では、ビジネスの増益、拡大、成長の機会を逸失したとしても、それをやらなかったことで悪い評価をされることはあまりありません。一方でやった結果うまく行かなかったら、間違いなく評価にバツがついてしまいます。それでは誰もあえてリスクを取りたくないのは当然です。日本の減点主義とアメリカの加点主義の違いとも言えます。
米国企業の決定へのアプローチはもっとREASONABLE & PRACTICAL (良い和訳が見つかりません)です。米国企業の場合、100の要件を検討した結果いくら徹底しても80しか詰められないのは日本と同じとして、そこから違うのは残り20が致命的リスクでないと判断したら、その案件にGOを出すでしょう。この検討作業の違いから見ても、日本企業では、完全の追及が生産性を阻害し労力と時間の無駄を生じさせています。それが全ての日本企業で起こっているとは言いません、あくまで一般的傾向としての話しです。皆さんの会社はいかがでしょう。
4.行き過ぎた規格・規則
完全主義は、モノづくりの世界で、あれもこれも完璧にしようとした結果、行き過ぎた規格、そして行き過ぎた規則を生み出しているように思います。できてしまった規格、規則を無視することは許されず、建前上遵守しなければならないのですが、遵守すれば生産性がダウンし、コスト増が生じてしまいます。ここでコンプライアンスと利益確保の板挟みになるのですが、さてあなたの天秤はどちらに振れるのでしょう。
昨今、多くの企業においてデータの詐称、品質の規格未達、規則の不履行と言った不祥事が多発していますが、全てがそうだとは言いませんが、行き過ぎた規格・規則が、元凶になっているように思えてなりません。日本のモノづくりにおける素晴らしい品質は、高度な規格や基準によって作られてきました。
しかし、一方で完璧を目指すあまり、一部では必要以上の行き過ぎた規格・規則が作られてしまったようです。それは多くの企業において、特に部品供給を主とする下請け企業において、低い生産性と低収益を強いることになっています。企業をして社会的不祥事まで起こさせるような、行き過ぎた規格・規則は無駄としか言いようがなく、正しく是正されるべきです。
(注:不祥事は許されないことですが、それを起こした企業の一部は、完璧主義の犠牲者と思えて、ここではそんな企業の立場に立った記述となりました。)
5.重箱の隅をつつく
完全主義は、時には「重箱の隅をつつく」思考と行為に走らせます。国の法律を作るにも、そのような枝葉末節な議論を交わされているように思えてなりません。例えば、消費税の免税対象の審議において、スーパーで売られている食品でも加工されているものは課税するとか、ファーストフード店でテイクアウトすると免税とか、国会で延々と討議されていました。そんな重箱の隅をつついたような法案が通過したら、日本中が複雑怪奇極まりない会計処理を負担することになるでしょう。なぜもっと外国の例を調べ、それに倣うことをしないのか不思議に思います。
米国での消費税は連邦ではなく、各州独自の法律です。州ごとに様々ですが、多くの州が食品・食料に関しては免税対象としています。免税対象の食品・食料の定義は、FOODSではなくGROCERY(食料雑貨販売業)と規定されています。同じ食品でも、スーパーで買えば免税、マクドナルドは店内であろうがテイクアウトしようが課税なのです。すっきりしていると思いませんか。(参考までですが、多くの州で食品なのにキャンディとソーダだけが課税対象となっています。なぜでしょうね。理由の調査はできていません。)
マサチューセッツ州の特異性は、学生支援と言える免税措置です。衣類と出版物が免税、さらにボストンでは(もう20年前の経験ですが)確か115ドルまでの靴が免税対象でした。靴は高級品は別にして、学生にとって消耗品だからです。日本の法案も重箱の隅をつつくようなものでなく、もっと大括りでしかも実際に則して制定して欲しいものです。
(最後に)
日本の完全主義の良し悪しは、まさに諸刃の剣そのものです。ここでは幾つかの具体例をもって完全主義の悪い面だけを述べましたが、読者の方々も日々色々なところで実感されていると思います。ちょっと立ち止まって、重箱の隅をつつく、やり過ぎ、行き過ぎ、考え過ぎになっていないかを確かめてください。
日本人の生産性は世界で21-22位と低く、先進国の中で最下位です。完全主義という日本人特有の性癖も、残念ながら生産性を阻害する一因になっています。レバノン人の奥様が賞賛してくれたPERFECTION、即ち私たちが誇るべき良い完全主義は今後も大いに延ばし、一方で行き過ぎた完全主義はほどほどにすることで、生産性を阻害することなく多くの無駄を排除したいものです。
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