定期的人事異動にまとわる無駄
文/在米日本人フォーラム(Text by Japanese Forum USA)
- 2018年7月5日
日本は昔から資源が乏しい国と言われてきている。しかし、ここで実は資源はいくらでもある、と言ったら誰もが怪訝な顔をするに違いない。これは事実である。ここで言う資源とは「無駄」である。つまりこの無駄をなくすことにより時間と金を創生することができる。こう言われると反論する人は少ないだろう。
これまでにいろいろな企業の「無駄」について書いてきた。しかしその中でも最大の無駄は人材ではないだろうか。
有為の人材の無さを嘆く企業が多い一方で、有為の人材の育成に工夫と努力をしない企業が同じくらい多いかも知れない。そこでなぜかを考えてみた。
その根源は、小学校教育から始まっていると思う。それは落ちこぼれを出さない代わりに英才教育もしないという平均的集団教育だと思う。そしてそれが「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という誤った集団論理を生み出している。
何事も集団で行動する習性を言わば日本人のDNAのようなものだと言ってしまうと身も蓋もなくなってしまう。やがて学校を出て企業に入ると、「出る杭は打たれる」、「長いものには巻かれろ」、と言った諺どおりに何もしないことへの言い訳を並べたてることになる。
そしてそのような環境の中で、優秀な能力を持った人材がその能力を発揮できないまま、ただ歳をとってゆき、やがて「定年」を迎えることになる。
今日の日本企業では上記がごく一般的な状態ではないだろうか。それは日本の学校教育に端を発していると思うのだが、その教育制度の延長線上にある企業内にも平均的社員しか培えない土壌がある。いくつかの原因を挙げてみたい。
まずは定期採用、そして終身雇用制度、さらには定期的人事異動が考えられる。これらは日本企業に特有のものだ。これらのシステムが上手く機能した時代がなかった訳ではない。しかしそれらのどれ一つをとってみても今の日本経済の実情に適しているとは思えない。
今は優秀な人材を確保し、その人の才能をいち早く開花させ、「適材適所制度」を推進しなければならない時なのだ。これは定期的人事異動とは相反することだ。日本の企業文化を変えるには、一朝一夕にはゆかず途方もない長い時間がかかる。
トップのCEOが変わると企業文化がガラッと変わるアメリカ企業と大いに異なる点だ。グローバル化がこれだけ急速に進みつつある今、時代にそぐわない企業文化を変えることができないことは、その企業がこれからの10年を生き抜けるかどうか、いわばその企業の死活問題と理解すべきだ。
今すぐ定期的人事異動を廃止すべきとは言わない。しかしそれを半分とし、残りの半分を適材適所制度にしてみてはどうだろうか。
社員各々の持つ才能、資質をいち早く見出し、幹部候補生を育成するための英才教育制度を社内に設けると言った、社内の人材育成制度の抜本的改革が必要となる。
定期的人事異動はこれほど理屈に合わない制度は他にあるまい。広く浅くなんでもある程度はこなせるという人材の養成がどれほど意味のあることなのだろうか。
仮に1万人の社員の組織を考えてみよう。常に20名ほどの社員が将来の経営者候補としてそれなりの教育を受けるとする。
そのために企業内のいろいろな部署の知識と経験があることは良いと思うし、そのために人事異動があることは理解できる。しかし同じ理由から社員全員を定期的な人事異動の対象にするのは大いに疑問を感じざるを得ない。
人事異動に伴い、慣れない業務をすることになり、当然作業効率も悪くなる。
日本の労働者の生産性が他国と比べて殊の外低いことは多くの人の知るところだが、この定期的人事異動も生産性を低下させることと無関係だとは思えない。
技術革新は日ごとに起っている。経理業務一つ例に取ってみてもそのためのソフトの技術は日ごとに変わり、経理業務の基本原則すら変わるのだ。
10年ほど前に経理部にいましたといってもその知識が10年後も本当に役に立つのだろうか。その空白の10年間を作るよりも、経理のプロとして同じ業務に定着させておれば、変化する経理上の知識も技術も途絶えることなく常にアップデートできて、その仕事に高い生産性も維持されたはずである。
人事異動に伴う費用も無視できない、さらにそのために何人もの人が働いている。定期的人事異動は、異動させられる人の職務上の生産性低下に加え、さらに異動に関わる費用や労働力を考えると、極めて非生産的な制度としか言いようがない。
定期的人事異動で社員の知識が幅広くなるという利点(標準の底上げ)はあるが、現在のグローバル競争社会で必要なことは、決断スピードと開発スピードであり、それを可能にするのは専門知識の高い人材と、その専門的な内容を理解し決断できる高い管理能力を持つ人材が必要である。
そのような人材の育成を妨げる常習化された定期的人事異動は、企業の人的基盤を脆弱化するものであり、日本企業がグローバルな競争社会で生き残るためには速やかに廃止すべきである。
その上で、それに代わるもっと効率の良いそして生産性の高い人員配置と人材育成を可能とする人事異動制度にすべきである。
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