【ニューヨーク不動産最前線】
マンハッタンのおトク物件「コンバージョン」

今に始まったことではありませんが、マンハッタンでは老舗のレストランや昔から続く小売店がどんどん閉店しています。人気があって行列のできていたパン屋さんや、リーズナブルな値段でおいしい食事を出すレストラン、レア物を売っていた画材屋さん。とても繁盛していたお店でも、晴天の霹靂のようにある日突然、閉店宣言をしてクローズしてしまいます。

その後には銀行やチェーンのお店が入るか新しいビルに立て替わるかして、町の風景がどこに行っても同じような味けない感じになっています。昔ながらの石畳の道も、いつの間にか舗装されたその辺の道に変わっていたりして、町の様子がどんどん変わっていきます。

古き良きを保存する「コンバージョン」方式とは

長く住んでいるとこのような変化は結構さびしく感じるものですが、一方で、ランドマークとなっているビルや外観の美しいビルは、それを保存しようという動きもあります。ビルの外観だけをそのまま残して、内部は総取り換えするコンバージョンという方式です。このようなやり方は個人商店には無理ですが、大規模デベロッパーだと可能なのですね。

特に金融街を中心とするローワーマンハッタンでは、元オフィスビルだったものをコンバージョン方式で住宅(コンドミニアム)へと変える手法が多く見られます。これは一から新築を建てるよりも、もとからあるビルをコンバートする方が経済的だという理由のほかに、やはりマンハッタン発祥の地であるローワーマンハッタンには、それなりの歴史とヨーロッパの雰囲気の漂う美しいビルが多いからなのでしょう。

クラシカルなコンドミニアム「Cocoa Exchange」

私の好きなコンバージョンビルで、「ココアエクスチェンジ(Cocoa Exchange)」という名前のコンドミニアムがダウンタウンにあります。1904年にアメリカの船会社が作ったビルで、1931年から1972年までCocoa exchangeがメインテナントとして入り、カカオのトレーディングをこの建物の中で行っていたようです。金融街なのに、証券取引所だけではなくこのような食品の取引所もあったのだと妙に感心してしまいました。

話が逸れましたが、クラシカルな素敵な外観の建物で、2つのストリートが交差する場所に立っているため建物の敷地が三角形で、14丁目にある有名なフラットアイアンビルによく似ています。建物のユニークな経歴と美しい外観から、ランドマークビルに指定されています。カカオ取引所の後、しばらくオフィスビルとして利用されたのち、2006年にコンドミニアムとして内部が改装されました。外観はそのままで、内部だけを新しくしたのです。

ちなみにコンバージョンの建物は、元倉庫、工場、病院など、商業用途で建てられたビルが多く、重さに耐えられるため頑丈に作ってあります。天井も高いものが多く、コンドミニアムにコンバートされても新築にはない味わいがあります。

さらに嬉しいのは、外観は古くても税法上は新築ビルとして扱われるため、このようなコンバージョンのコンドミニアムを購入した場合は新築ビルと同様の税金優遇制度が利用できます(*)。マンハッタンでのコンドミニアム購入の際は、コンバージョンはお得かもしれません。

*全ての新築ビルに税金優遇制度が適用されるわけではありません。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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