海外教育Navi 第28回
〜子どもだけ日本へ帰国、高校の選び方〜〈後編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.高校入学に合わせて子どもだけ日本に帰国させることになりました。寮に入れる予定ですが、学校を含めてどのように決めればよいでしょうか。

前回のコラムでは、子どもを帰国させる際の心のケアと、高校の寮制度について説明しました(前回記事へ)。今回はその続きをお話しします。

寮で生活するということ

学校によって寮の形態はさまざまですが、親元での生活とは異なった生活が待っているという点では同じです。本人がそのことを自覚すると同時に親御さんもそういう環境へ子どもを送り出すという認識を持つ必要があります。

例を挙げてみますと
①ホテルではないので自分でしなければいけないことがたくさんある(掃除や洗濯など)。
②自由の度合いが少なくなる(自分の自由にならない時間がある)。
③お金の管理は自分でしなければならない。
④自分だけが使える場所(空間)が制限される。
⑤共有で使用する場所が多いので物の整理整頓をきちんとしなければならない。
⑥食事の内容が限られるので食べ物の好き嫌いは言えない(アレルギーがある場合は入寮前に相談する必要がある)。

たとえ個室であっても集団で生活する場面が多くあります。ときには自分にブレーキをかけなければいけないことも出てくるでしょう。自分の物と人の物との区別をきちんとしなければいけない場面も出てくると思います。

“郷に入れば郷に従え”で徐々に慣れていくこともあるでしょうが、いままでまったく気にもかけていなかったことを突然しなければいけなくなったときに困るのは本人です。そうならないために、多少は前もってそのさまざまな状況を予測して実践しておくことも大切です。

保護者が考えなければいけないこと

次に寮にもさまざまな形態があるという点から、保護者が知っておいた方がいい例を挙げてみます。

①閉寮になる期間がある。
②三者懇談等保護者が学校へ行かなければならない行事がある。
③緊急時に保護者の対応が必要な場合がある。

「寮に入ったのだからもう安心、すべてお任せします」というわけにはいきません。前述のように長期休暇中の閉寮時には親元へ戻ったり、親戚のところへ行ったりすることもできますが、日曜日ごとに閉寮になるところもあります。その場合は毎週末には別のところで過ごさなければいけなくなりますので、その場所を確保しなければいけなくなります。

また病気になった場合、どの程度まで寮のスタッフが見てくれるかもそれぞれ異なります。たとえばインフルエンザ等の感染症にかかった場合はすぐに寮から離れなくてはいけないと規定しているところもあります。

入寮を決定するまでに「保護者がどこまで対応できるか」「寮でどこまで対応してもらえるのか」等、十分に確認することが大切です。

学校の寮のほかに、数は少ないですが私設の寮もあります。大学生などが住む寮と同じような形で高校生も受け入れるところもあります。高校生の場合は入学を希望する学校が私設寮からの通学を許可してくれるかどうかの確認も必要になります。

まとめ

寮に入る場合、考えなければいけないことがたくさんあります。すべての条件において満足できるところを見つけるのは難しいでしょう。しかし本人や保護者がいちばん大事にしたいと思うところをしっかり見極めることは大切です。

学校の指導内容が気に入って入学したけれど、寮生活が合わず退寮しなければいけない状況になると、学校への通学ができなくなってしまいます。そのようなことになるのは避けたいことです。

学校選択にあたっては、本人や親が求める教育内容であるかの判断はとても重要ですが、それと同様に寮についても納得のいく選択が大切です。学校側も「入学を決める前にかならず、本人だけでなく保護者もいっしょに寮の見学をしてください」と発信しています。これはぜひ実行されるようにお勧めします。

たいへんな面もあるかもしれませんが、実際に寮生活を経験した多くの帰国生から、充実感いっぱいに「3年間生活して友達の大切さ、いっしょにいるからこそできる強い“絆”が培われました」「親のありがたさがよくわかりました」などの話を聞く機会がよくあります。前向きに考えて、充実した寮生活を送られることを願っています。

今回の相談員
海外子女教育振興財団 教育相談員
山岡 莊平

奈良県の公立小学校にて教諭、教頭、校長として勤務。その間リマ、バハレーン、イスラマバード日本人学校に各3年間教諭、校長として勤務。その後、奈良教育大学非常勤講師。2008年度より海外子女教育振興財団の教育相談員、13年度より関西分室長。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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