海外教育Navi 第30回
〜治安の悪い地域に赴任した際、家庭ですべき危機管理〜〈後編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.治安のよくない地域への赴任が決まりました。家庭ですべき危機管理について教えてください。

前回のコラムでは、主に家の内部で注意すべき事項について説明しました(前回記事へ)。今回はその続きをお話しします。

車と安全確保

親が自分で運転できる国でも無防備ではいけません。南アフリカ駐在経験者はカージャック等を警戒して、チャイルドシートは子どもをすぐに抱き上げて逃げられる席に設置するように心がけたそうです。こうしたふだんからの心がけが大事を生まないことにつながります。

「毎日同じ時間帯に送り迎えしています、出勤しています」という几帳面さが仇になることがあります。先進国でしたが、学校に送ったあと、アパートの駐車場に戻ったタイミングでカージャックに遭った夫人がいます。助手席のチャイルドシートには乳児。男の手には割れたビール瓶。どれほどの恐怖だったことでしょう。かろうじて逃げ切ったものの、その後、駐在を続けることができず、極度の精神的ダメージを抱えて一家は緊急帰国しています。寄り道をする、遠回りをするなどして、待ち伏せされない工夫が必要です。

子どものストレス対策

外遊びの場所が限られ、移動にはいちいち車の確保が必要で友達との行き来も自力では不可能となると、子どもにストレスがたまって当然です。「友達に会うのもひと苦労。チャットやラインの時間が増えても大目に見ていた」と言う親がいれば、イラン駐在経験者からは「子どもの退屈を慰めるためにうさぎを飼っていた」との知恵が。子どもの精神状況を理解し、追い込まない鷹揚な対応が求められます。

一方で娯楽がない分、家族が共に行動することになり、向き合う時間が増えたのは何よりの収穫という声も多く聞きます。

大事なものは体から離さない

ブラジル駐在経験者は、「町なかでちょっとした隙に我が子のベビーカーを平然と押して立ち去ろうとする女性がいて、『何するの!』と大声で飛びついた」そうです。返ってきたことばは「置き去りかと思ったわ」。なんて厚かましい言い逃れでしょう。ブラジルで多発する誘拐を思うとゾッとします。またジャカルタ駐在経験者の場合、体のすぐ脇に置いたバッグを持ち去られそうになって、「何するんだ。俺のバッグだ!」と叫んだら、「え? 捨てたと思ったよ」ですから。

子どももバッグも、大事なものはすべて体の一部を接触させ、犯罪者をその気にさせないことが必要です。同時に子どもたちにも親から離れて好き勝手に走り回らないよう躾る必要があります。また怖いこと、不快なこと、悲しいこと、困ったことがあったら、日本語で構わないから大声で誰かに伝えなさい、と教え込むことが大事です。発信し損なっては、事が大きくなりかねないからです。

乗り物(?)に注意

駅やショッピングセンターのエスカレーターのスピードに体がついていけず、足を踏み外した、転んだという話を聞きます。日本とはスピードが違い、遅すぎたり早すぎたり。老朽化がひどく、不安で乗れない場合も。またインドなどのバスは、飛び乗り、飛び降りが常識とありますから、乗り損ねたり降り損ねたりしてけがをするケースが発生しかねません。鉄道でも発車ベルが鳴らない、連結が途中で離れて行き先が突然変更になる、ドアの開閉時間が極端に短いなどと日本の常識では考えられない運航がまかり通っています。子どもひとりでは利用させない徹底した姿勢が求められます。

住めば都

「不安よりむしろ不便な状況に戸惑いました。でも日本と違う状況を嘆いても仕方なし。こんなもんだと思えば、治安問題も生活問題もなんとかなるものです。むしろ、広々とした大地で人懐っこい地域の人たちの優しさに包まれて、日本では見ることがない光景を人生に取り込めたことは大収穫でした」と言うモザンビーク駐在経験者のことばに救われます。

「ときどき爆弾騒ぎもあったけれど、日本で報道されるほどの緊迫感はなかったです」とふり返るのはパキスタン駐在経験者。そう言い切れるのも日常のなかでアンテナを張り、危機を感知し回避すべき勘どころを知っていたからに違いありません。

治安情報は、外務省海外安全HP(https://www.anzen.mofa.go.jp)に犯罪の事例や対策が詳細に書かれています。また外務省発刊の『海外安全虎の巻』もPDFで閲覧できるので一読をお勧めします。現地では在外公館から安全に関する情報を入手するとともに、隣人や先輩駐在者、学校や日本人会などから積極的に情報を得ましょう。冷静に治安状況を知り、対応を家族全体で共有し、安全に対する意識を「現地モード」に切りかえたあとは、のびやかに構えて存分に駐在を楽しんでください。

今回の相談員
海外生活カウンセラー/海外邦人安全協会 理事/NPO国際人をめざす会副会長
福永 佳津子

上智大学卒。ニューヨーク在住6年、マンハッタンビルカレッジで修士号(MH)取得。ニューヨークWISH日本語電話相談室カウンセラー。帰国後は、海外生活カウンセラーとして講演・執筆が多数。著書・編書に『ある日海外赴任(ジャパンタイムズ)』『海外安全ガイド(KDDクリエイティブ)』『アジアで暮らすとき困らない本(ジャパンタイムズ)』など。2男2女の母。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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