海外教育Navi 第48回
〜思春期の子ども − 帰国する際に親としてできること〜〈後編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.思春期の子どもを連れて帰国しますが、友人関係が不安のようです。親としてできることを教えてください。

前回のコラムでは、子育てをする際に親が心がけるべきことについてご紹介しました(前回記事へ)。今回はその続きをお話しします。

ロミオとジュリエットも

シェークスピアの恋愛悲劇「ロミオとジュリエット」は、ロミオが17歳でジュリエットが14歳(16歳と13歳という説も)の設定です。絶対的な親と環境、ふたりの純愛とそれを取り巻く猥雑さはまさに思春期そのものです。

性への本能的な恐れと強い関心、純愛にも強く憧れる混沌とした不安定な時期が思春期です。いままで子どもだったのに「性」という要素が加わり、自分にも生殖能力があることを戸惑いつつ受け入れながら大人になっていきます。友情や恋や性が満載の季節は、そうやすやすと通過させてはくれません。

大人の思う通りには生きていないぞ!

我が家の長男は現地校11年生のときに家出を決行。10日間ほど友人宅から帰ってきませんでした。10年以上にわたる滞米生活でしたから、日本文化とアメリカ文化との狭間の問題も背景に起きた出来事でした。

高校生活も仕上げに入る時期のことです。夫がカリフォルニアからノースカロライナへの再転勤の辞令に、「家族で引っ越す」と宣言し家庭内バトルが勃発。子どもたちの気持ちを聞かずに強権を発動した父親に反発しての出来事でした。夫は最終的に単身赴任を選択。何か問題が起きるときは「親としてのあり方が問われている」と痛切に感じた「親のレッスン」でもありました。

久しぶりに帰宅した長男の髪はみごとなブロンド。大人がよく思わないことをあえてすることで「大人の思う通りには生きていないぞ!」と全身で訴えていたのでしょう。

いつまでたっても親が「絶対的な存在」であり続けたら、自立した大人になることはできません。ある日、親が疎ましく思われ、親の価値観に疑問を抱き、親との間に距離を取るからこそ、自分自身の価値観を育てることができるのだと思います。

いじめにあったとき

長女は中学1年生のときに帰国しましたが、帰国生受け入れ校で同じクラスの帰国生から意地悪をされたことがあります。あとで明らかになったその理由は「人気があっていつもみんなの中心にいるから、マイナーな子の気持ちをわからせたかった」というものでした。その子は娘の名で、娘の字をまねて友だちの悪口を書いたメモをわざと教室に落とし誰かに拾わせました。噂は広がり娘は孤立。ひとりで耐えた娘は解決したあとにその顛末と苦しかった気持ちを話してくれました。なんてキツイ時間をひとりで抱え、踏ん張っていたことか。その真っただなかでは言わず(言えず)、過ぎてから話してくれたことにも胸が詰まりました。

「いじめにあった」と親に伝えることは、子どもにとっては惨めでとても勇気がいることです。親に打ち明けてくれたとしたら、それはどんな自分でも認めてくれると信じているからです。

いじめに正論?

なぜか「いじめ」にはいじめる側の「正論」があり、「あの子はちょっと私たちと違うし」「わがままだし」などと一方的に相手の気持ちをシャットアウトして、自分側の正論を押しつけてきます。いじめられた経験がある子どもはトラウマからいろんなことを「自分が悪い」と感じる傾向がとても強くなるように感じます。

そんなときは、その子の感情をまるごと受容して「生きていてくれるそのままでよし」としっかり肯定する無条件の愛と、なにかあれば毅然と子どもを守る盾となる親の存在は安心をもたらします。

子どもにとって思春期は親離れのときであり、親にとっては子離れのとき。「うざい」「べつに」といったそっけない応答も常套句。ことばにするにはあまりあることが内面では起こっているのです。大人になる前の「さなぎ」の時間。親も腹を据え(子は親の腹が据わっているか否かすぐ見破ります)いっしょに揺さぶられながら、お子さんを見守ってくださいますように。

*おすすめの本
『10代の子をもつ親が知っておきたいこと』水島広子(紀伊国屋書店)
『思春期の意味に向き合う』水島広子(岩崎学術出版社)
『こころの子育て』河合隼雄(朝日新聞社)
『あなたが子どもだったころ』河合隼雄(講談社+α文庫)
今回の相談員
海外子女教育振興財団「現地校入学のための親子教室」親クラス講師
つちや みちこ

ライター、海外生活カウンセラー。多文化間精神医学会会員。上智大学卒業。夫のアメリカ駐在で13年間をイリノイ州、カリフォルニア州、ノースカロライナ州で過ごす。3人目の子どもはアメリカ生まれ。帰国後、教育評論家の尾木直樹氏が主宰する臨床教育研究所「虹」の研究スタッフに。子どもたちと体験したアメリカの学校についてまとめた『わくわく学校レシピ』(文芸社)を出版。2009年より海外子女教育振興財団「現地校入学のための親子教室」親クラス講師。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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