海外教育Navi 第55回
〜日本人学校で不適応を起こすケース〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.子どもを日本人学校に行かせるつもりなのですが、不適応を起こすケースについて教えてください。

「うちは日本人学校に通うことに決めました。インターや現地校と違って安心!」と安易に考えてはいけませんよ。小規模校と大規模校、日本人学校それぞれの「不適応」の原因およびその対応策について考えてみましょう。

日本人学校の特長

基本的に、日本人の先生が日本の教科書を使って、日本語で教えています。だから、「日本の学校と同じなんだね!」と思いますよね。それはそうなのですが、やはり海外にある学校ということで、おもに次のような特長があります。

・それぞれの学校が日本のカリキュラムに加えて、英語や現地語の教育にも力を入れている。
・校外学習や現地校との交流などで、異文化理解教育も進めている。

編入手続きもわかりやすいですし、学校として受け入れ態勢がしっかり整っています。うまく適応していければ、初日から上手に仲間入り、1週間通ったら「もう慣れたので大丈夫」、そして1カ月通ったら、もうずっと前からいたような気持ちに……。

いいことばかりですね。もちろん「あってよかった日本人学校」ということです。

しかし、そうはいってもお子さんにとって海外での学習のスタートになることには変わりありません。注意しておかなければならないことを考えておきましょう。

不安

行く前から不安に思われることはいくつもあると思います。そのなかでもたぶん、いちばんは「友達できるかな?」ではないでしょうか?

大丈夫です。日本人学校の子どもたちはほとんどの子が転校生としての経験を持っています。自分もそんな期間があったので、転校してきた子にどう接すればその子にとって、また自分にとって望ましいことであるかを体で知っているのです。登校初日から周囲の子たちは、「何かわからないことがあったら、言ってね」「次は理科室だからいっしょに行こうか」などと上手にお子さんの慣れる過程に援助の手を差し伸べてくれるでしょう。

そこで望ましくないのは、わからないことを隠して知ったかぶりをしたり、「大丈夫だよ」と援助を断ったりすることです。もちろん自立心はあっていいのですが、ここはまず、周囲の子たちの優しい気持ちに乗っかり、軽く甘えて新しい学校生活をスタートさせるとよいと思います。

いちばんいけないのは、不安感から虚勢を張ったり、ちょっとしたウソをついたりすることです。周囲の子どもたちはそのようななことは見破って、関係づくりにつまずくかもしれません。

日本人学校という異文化

校門をくぐれば、そこは日本。とはいっても、お子さんにとっては新しい学校生活が始まるわけです。日本国内で転校する緊張感とはわけが違うと思います。ましてや、それまで国内でも転校した経験がないお子さんにとっては、日本人学校も異文化そのものになるのかもしれません。

いままでの学校生活と違うことには次のようなものも挙げられます。

時間割
比較的短い休み時間を挟んで6・7時間授業が進められ、お弁当や昼休みの時間も短い場合が多いです。

スクールバス等のある学校では、帰る時間が決まってしまいます。放課後の居残り学習も、下校時間までのちょっとした遊び時間も非常に限られるのです。予想以上にてきぱきと時間が流れていく感じになります。

最初のうちは非常に疲れるので、家庭での時間はゆったりとさせてあげたいものです。学校以外の習い事や学習なども、焦らず、お子さんの慣れ具合を見てから考えはじめるのがよいでしょう。

バス通学
友達と談笑しながら歩いて登校するケースなどは少なく、決められた時間にスクールバスの乗車地点まで行かなければなりません。

朝の交通事情が厳しい都市では、バスに乗ってから到着まで1時間かかるということもそんなに珍しいことではありません。早寝早起きは特に小学部低学年のお子さんには生活リズムが整うまで、整ってからもできるだけ大事にしたいものです。

また帰りのバスでは、お子さん同士のちょっとしたトラブルが起きやすくなります。1日の授業が終わった開放感もあり、ささいなからかいから、けんかに発展することも珍しくありません。悪意のあるいじめなどはめったにありませんが、上の学年の子からのちょっかいなどがないか、お子さんからバス内での様子などを、それとなくキャッチしておかれるとよいと思います。

→「第56回 〜日本人学校で不適応を起こすケース〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員

海外子女教育振興財団 教育相談員
奥田 修也

ドイツのデュッセルドルフ日本人学校教諭、ベルギーのブラッセル日本人学校校長、中国の北京日本人学校校長として海外で多くの子どもたちや保護者に接した。2018年から海外子女教育振興財団の教育相談員として、渡航前・赴任中・帰国後のご家族の教育に関するさまざまな相談を受けている。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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