海外教育Navi 第60回
〜日本への帰国が決まった時、子どもの気持ちとどう向き合う?〜〈後編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.帰国が決まりましたが、子どもは寮に入ってでも「現地に残りたい」と言います。どうしたらいいのでしょうか。

前回のコラムでは、小・中・高校それぞれの子を持つ場合の心得についてご説明しました(前回記事へ)。今回は、現地に残るための心構えについてお話しします。

残るための条件を整えよう!

「寮に残ってでも」というような子どもの強い思いを尊重することは大切ですが、まず、現地に残す目的を明確にしなくてはなりません。これは子どもの性格や心情とも深くかかわっていますので、よく話し合って慎重に行うことが重要です。

次に、現地の「社会情勢」も見極めなければなりません。生活面での安全が保たれていない場合には残すべきではないでしょう。

さらに、現地残留にかかわるさまざまな課題を克服することが必要です。滞在国の法律に対応したり、新しい生活環境を整えたりしなくてはなりません。場合によっては転校することも視野に入れなくてはならなくなります。

ビザの変更の問題

ビザの問題は重要です。海外赴任に子どもを帯同する場合は原則として「帯同ビザ」ですが、子どもだけを現地に残す場合には「学生ビザ」等への変更が必要となります。

なお、滞在国にもよりますが、高校生段階までの学生ビザの取得は難しい場合が多いので現地の弁護士と相談するなどして確実に進めてください。

残留後の生活環境の構築
学生寮を備えている学校もありますし、ホームステイという方法もあります。また、次のような生活環境が整っている学校へ転校するという選択もあります。

・ボーディングスクールや私立在外教育施設への転校
アメリカの場合、ボーディングスクールへの転校はかなり難しいようですが、転校さえできれば学生ビザへの変更手続きもスムーズに進みます。

・私立在外教育施設への転校
国や地域が限られますが、いわゆる「私立在外教育施設」には学生寮を備えている学校もあります。高校段階が多いですが、立教英国学院のように小学5年生から受け入れている全寮制の学校もあります。

トータルで考える帯同

海外での学び方は多様で、帰国後の「キャッチアップ」を視野に入れるとその選択の幅はさらに広がります。

また、帰国はしたものの現地への思いが強い場合には、高校や大学での留学という方法で滞在していた国へ「戻る」という学び方も可能です。

大切なのは、出国前の準備から帰国後のキャッチアップまでを「帯同」と受け止め、トータルで考えることです。

参考資料
<私立在外教育施設>

・早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校(シンガポール)
・如水館バンコク高等部(タイ)
・西大和学園カリフォルニア校(アメリカ)
・慶應義塾ニューヨーク学院(アメリカ)
・帝京ロンドン学園(イギリス)
・立教英国学院(イギリス)
・スイス公文学園高等部(スイス)
〈『学校便覧』(海外子女教育振興財団)より〉

今回の相談員

海外子女教育振興財団 教育相談員
平 彰夫

千葉県の公立小学校で教頭、校長を歴任。千葉県小学校長会理事、千葉県海外子女教育国際理解教育研究会副会長を経験。1998年より3年間、デュッセルドルフ日本人学校に教頭として赴任。この間、補習教室の教頭を兼任。2011年4月より海外子女教育振興財団の教育相談員。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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