海外教育Navi 第61回
〜特別支援が必要な子どもを海外赴任に連れて行く?日本に残す?〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.特別支援の必要な子どもを連れてアメリカに赴任しますが、現地校に通うことになります。父親だけが赴任して母子は日本にとどまるべきでしょうか。

すでに日本の学校で特別支援教育を受けられていて、いままでの支援サービスが有効であればあるほど、言語や教育制度の異なる国にお子さんをお連れになることに不安を感じられるかもしれませんね。かといって、家族が離れ離れになってしまうことにもデメリットを感じられることでしょう。

各家庭の事情もあるでしょうが、次のポイントを検討されることが肝要です。

①アメリカの特別支援教育は法的にも支えられ整備されている。
②しかし、英語で特別支援教育を受ける効果が期待できない場合もある。
③家族がバラバラになった場合のサポート体制は確保できるか。

これらの一つ一つについて説明していきます。

①整備されているアメリカの特別支援教育

アメリカでは特別支援教育は人権として公教育のなかにしっかり根づいています。子どもの状態を測定するアセスメント(実態把握)のツールの開発も指導介入の技術もむしろ日本より進んでおり、専門家が学校の中でも対応しています。

アメリカの全障害者教育法
アメリカでは特別支援教育は0歳から21 歳まで保障されています。「全障害者教育法(IDEA)」に、無償で、適切な公教育を、制約が最小限の環境で提供することが謳われています。

指導介入が「適切に」行われるためには、当然のこととしてお子さんの正確なアセスメントも学校が提供するということを意味します。そして、「制約が最小限」というのは、「限りなく通常の状態(特別なことを何もしない状態)に近づける」ことを意味するのです。

私たちは支援について考えるとき、親切心から「これもあれもあるといい」と考えがちです。しかし、この法律で保障しているのは「ニーズにこたえる」ことであって「有益ならすべて提供する」わけではありません。

ケチなように聞こえますが、じつは「支援サービス」を理由にその子が必要以上に隔離されてしまうことをこの制約によって防いでいるのです。

この法律は連邦法なので、アメリカ国内どこの州でも同様のケアが受けられることになっています。

 

障害認定
アメリカの学校で特別支援教育の支援サービスを受けるには「受給資格」の認定が必要です。アセスメントの結果に基づき保護者も含むチーム会議で「障害認定できるかどうか」、「認定できるとすれば13種類のカテゴリー(自閉症、聴覚障害、全盲+聴覚障害、情緒障害、難聴、LD、知的障害、重複障害、肢体不自由、その他の健康上の障害、言語障害、外傷性脳障害、全盲も含む視覚障害)のどれが最も適しているか」を決定します。

このカテゴリーはのちの成長や変化によって、変更されることもあります。ちなみにADHDは「その他の健康上の障害」に分類されます。

日本から持参できるとよいもの
この障害認定のアセスメントを少しでも手助けするために、日本で受けた心理教育的アセスメントの結果報告書や医師の診断書、学校で作成された個別の指導計画、指導の内容やお子さんの状態がわかる資料を持参されると措置の内容を決めるのに役立ちます。

これらの書類は英文がベターですが、それが困難な場合はアメリカで翻訳してもらうことを視野に、日本語だけであっても提出をお勧めします。お子さんに関して、どういうことができて、どういうことが難しく、どのような指導介入がされて、どの対応方法が効果的であったか等を申し送りとして書いてくださるよう、ぜひ先生にお願いしましょう。

また、親御さんの把握している範囲で、学校や家庭での情報やいままでの経緯も書き留めておき、提出されるとよいでしょう。

こうした結果報告書から必要な情報が得られない場合は、現地校で再度、障害認定のアセスメントを受けることになります。現地校でのアセスメントは、 基本的には英語で行いますが、言語を多く使わない尺度を使ったり通訳を入れて行ったりします。なお、日本語を話すバイリンガルの専門家によるアセスメントが受けられる地域は稀であると思ってください。

申し込みから措置まで
住居が決まった時点で、居住を証明するもの(賃貸契約書等)と先述の資料を持って住居のある学校区の特別支援教育課に 申し込みます。

法律では保護者が申込書にサインをした時点から90日以内に正式な措置が決まることになっていますが、お子さんの障害や状態、過去の特別支援教育サービス受給歴によっては、仮措置としてすぐに支援サービスが受けられることもあります。

障害認定がされると支援サービスの種類や頻度・時間数、支援サービスを受けるクラスのタイプ、必要な環境調整(試験時の時間延長などの合理的配慮)などを決めていきます。

支援を行う専門のスタッフのほか、保護者もそのチームの一員ですので、納得のいかないことがあればどんどん質問してください。

→「第62回 〜特別支援が必要な子どもを海外赴任に連れて行く?日本に残す?〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員

ニューヨーク日本人教育審議会・教育文化交流センター教育相談員
バーンズ 亀山 静子

ニューヨーク州公認スクールサイコロジスト。現地の教育委員会を通じ、幼稚園から高校まで現地校・日本人学校を問わず家庭で日本語を話す子どもの発達・教育・適応に関する仕事に携わる。おもに心理教育診断査定、学校のスタッフや保護者とのコンサルテーション、子どもの指導やカウンセリングなどを行う。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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