プランを立てよう

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

Appointment Book

昨年のコロナ自粛生活は、苦しい毎日だった。エッセンシャルワーカーの私は3月半ばからの3カ月は完全巣ごもりだったが、7月4日以降はいつもと変わらず外出し、仕事をした。当然、厳しい規制があり、動く前にまず手続きをする。ルールに従うことを約束する書類とサインを提出する。数種類の書面があり、手間暇がかかる。慣れるよりほかなく、いつかその面倒さがニューノーマルになった。人間の適応能力というのは、凄い。せっかちな私は、人々の忍耐力に感心した。

だからこそ、待ちに待ったワクチンが超特急で開発され、接種が始まった本年は希望の年だ。たくさんの人々が長い冬眠にも似た生活から這い出す。10カ月以上の経済封鎖にもかかわらず、株式市場が高値を継続しているのは、希望と願いが裏付けになっているのかもしれない。新しい社会がどんなものになるのか誰も予測ができない。私たち一人ひとりの自覚と協力にかかっている。自分たちの生活がどう変わるか、地域社会がどう変化していくか、世界と国家間はどうなるのか。目を見開き、観察し、考え、記憶に残そう。以前の社会が根こそぎひっくりかえったが、コロナ禍は、誰もが助け合う平等で大切な存在だと分かったことが良かった。コロナウイルスは人を選ばない。

我々の働き方も激変し、コロナ後も、そのままZoomを使った働き方が定着すると予測されている。私のような旧式人間は、昔のままで何の不自由はなく、手書きや紙文化に未練がある。何もかも無機質のデジタル世界にあらがってきた。しかし社会ははるか先まで進み、現代社会を受け入れなければ置いてゆかれるだけだ。トボトボとついて行く。

自粛生活で改めて強く思ったのは、プランを立てることの大切さである。会社に行かなくて良い、通勤の必要はない、毎日在宅で良い。これは楽ちんのようだけれど、月曜日も火曜日も木曜日も関係なくなり、毎日は名前のないブランクの日々となる。やらなければならないことは、今日片付けなくても良い。明日も明後日もあるのだから。

これは危険な落とし穴だ。私は、病的ともいえる悪い癖があり、今やらなくて良いとなるとズルズルと引き延ばし、結局できなくなってしまう。その自分の弱点を知っているので、請求書は受けたら即、払う。仕事の電話や依頼には即座にOKの返事をし、その場で一番早い日時にアポイントメントを計画表に書き込む。依頼の内容、注意点なども追加する。これが、一番簡単でミスがない。後日見直しても、瞬時に内容を把握できる。些細なことでも、クライアントにとっては気になる大切なことなのだ。

用事に順番を付ける。やりたくないことから先に手を付ける。今日すること、1週間内にすること、1カ月内にすることなども全部一つの予定表に書く。これで、覚えておくというプレッシャーから解放される。

この計画表は10年来同じものを使い、それを見れば9年前の何月何日、どんなことがあったか等も思い出せる。携帯にも同じ機能があるらしいが、私にはまだ、一目で把握できる紙面のほうが効果的だ。

夜、寝る前に翌日すべきことをすべて書き入れ、不安をなくし、平安な気持ちで就寝する。翌朝は熱いコーヒーを飲みながらそれを見て、かかる時間の見当を付ける。一番やりたくないことを一番先にするルールだが、ここが辛いところで、エイヤッと小さな勇気を振り絞る。しかし、その後はルンルン気分だ。雑用はフルスピードで片付け、昼前には全部片付いてしまうこともある。その後の纏まった時間が充実した楽しい時間になる。新芽をつけた木々やその上の青空などを見ながら、未来のこと、家族、仕事、絵、文章、歌のことなどぼんやり考える。このぼんやりの時間がとても大切で、じわじわと何かが湧いてくる。

コンサートに行き、美術館を訪れ、友人と歓談し、という日常が返ってくるのは、ずっと先の夏になるだろう。できてもできなくても、やりたいことを計画表に書き込もう。計画表があるからできなかったことが分かり、無駄に過ごした時間や失った時間を自覚できる。計画なしに漠然と過ごせば、失ったものさえ曖昧になる。

今日の一日が集まって自分の一生になる。今日をぼんやり過ごせば、ぼんやりした一生にしかならない。さあ、計画表を開けて、ライフプランを書き込もう。自分が本当に好きなこと、やりたいことを全部やり遂げられたら、死を恐れずに済むかもしれない。コロナ禍で別れたたくさんの無念の死者の分まで生きよう。白紙の計画表の中に、豊かな未来が生きいきと立ち上がってくる。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう37年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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