海外教育Navi 第71回
〜子どもをスマホ漬けにしないための心得〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.幼児と中学生の子どもがいます。スマホ漬けにしないために親ができることを教えてください。

便利でこのうえない通信機器のスマホやタブレット、子どもの生活や遊びのなかにも急速に浸透し、メディア接触の低年齢化も進んでいます。友達との情報交換、調べもの、音楽、ゲーム等、自分の好きな時間に好きなだけ楽しめる魅力的な道具。

しかしメディアとの長時間接触による生活リズムの乱れや視力低下等の心身への影響、また学力との関連が指摘され、ネット依存問題(WHOは「ゲーム障害」を国際疾病分類に認定)は世界中で深刻な問題になっています。

中高生の親は、子どもがスマホを手放さないと訴えます。若いママには「スマホ育児」が広がり、スマホを子守がわりに見せたことがきっかけで、そのあと見せてくれないと泣き叫ぶ子どもたちが増えています。子どもたちをスマホ漬けにしないためにはどうしたらよいのでしょうか。

(1)幼少期のスマホとのかかわり方

本や歌で有名な『ママのスマホになりたい』をご存じですか。

「僕の願いはスマートフォンになること。なぜなら、僕のパパとママはスマートフォンが大好きだから。ふたりはスマホばかり気にして、ときどき、僕のことを忘れてしまいます。〜中略〜ママが好きだから、いつもそばにいたいから」とシンガポールの小学1年生が「自分の願い」という題で書いた作文がもとになっています。いちばん身近で自分を大切にしてくれるはずの親が自分に関心を向けていない。自分は愛されていないのか。どうしたら親の関心を自分に向けることができるのか。子どもの叫びが伝わってきます。

(2)子どもは人との触れ合いで育つ

目と目を合わせて語りかけることで赤ちゃんの安心感と親子の愛着が育まれます。むずかる赤ちゃんに子育てアプリの画面で対応するのは、育ちをゆがめる可能性大です。一見、魅力的な「養育に関するアプリ」も負の面があることを認識しましょう。

(3)乳幼児の脳の発達に必要なこと

乳幼児期は脳細胞が増え続ける大事なとき。遊びや触れ合いを通して五感や体力が育ち、発見や経験を体感します。自然に触れることで、四季の変化を感じ、好奇心や探究心を高めます。直接的体験をいっぱいさせてあげましょう。

スマホ漬けになると身体を使って遊ばないので、ものの基礎概念が身につきにくくなります。

さらに視力は乳幼児期に発達し、特に調節(ピント合わせ)と眼球運動には、走る、跳ぶ、追う等の外遊びが重要です。

(4)人とのつながりで、ことばは育つ

言語形成期である幼児期にスマホと向き合う時間が増えるとことばは育ちません。集団遊びをすることで友達との会話が弾み、仲間のすること、話すことをまねながら学びます。社会性を育み、ルールを守ること、思いやりも出てくるのです。

また絵本の読み聞かせは親子が共に育つ大切な時間。スマホ、タブレットはこの大事な遊びや学びを奪います。

WHOは「2歳未満の子どもには、スマホやタブレットは見せないように。2歳以降は1日1時間まで、少ないほどよい」と推奨しています。親もスマホから離れて会話を弾ませましょう。人との触れ合いを通して子どもの土台が築かれるのです。

(5)思春期のメディアとのかかわり方

中高生の子どもにスマホをいつ持たせるか。ビル・ゲイツ氏が自分の子どもにスマホを持たせたのは、14歳になってから(それでも早かったと)、そして故スティーブ・ジョブズ氏も幼い自分の子どもたちをiPadに近寄らせなかったそうです。子どもへの負の影響を知り尽くしたIT企業の経営者ならではの対応でしょうか。

今年1月、「第10回子どもとメディア全国フォーラム」(NPO法人子どもとメディア)が開催され、東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太氏による「スマホが児童・生徒の悩発達を阻害する」という講演がありました。

川島氏は、仙台市の小・中・高に通っている約7万人超の児童生徒全員の各教科の学力調査と生活習慣にかかわるアンケート調査の結果を8年間にわたり追跡した結果、平日にスマホを使うほど学力が下がり、脳にもダメージが起きることを明らかにしました。功罪の両面から見てみましょう。

〈短時間使用の功〉
スマホの使用時間が1日1時間未満の子どもは、さまざまな家庭学習、睡眠時間、学力においても、よい結果を示している。

〈長時間使用の罪〉
1時間以上スマホを使用後、2時間勉強した人と勉強しなかった人とを比べると結果はあまり変わらない。

スマホをしたあとに勉強をしても理解力が低下するため、頭に残りにくいのです。スマホ・タブレット等の使用頻度の高い子どもの大脳皮質および白質の広範囲な領域に発達遅延が生じていることも明らかになりました。さらにインターネット依存が強い学生は、自尊心が低く、不安、抑うつ傾向が高く、共感性や情動制御の能力が低い傾向にあるようです。

それを裏づけるかのように、米国からもスマホ使用で集中力、人間関係能力、批判的思考力、問題解決能力等がこの10年で際立って低下しているという報告があります。

→「第72回 〜子どもをスマホ漬けにしないための心得〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員

海外子女教育振興財団「渡航前配偶者講座」講師
小木曽 道子

ドイツとアメリカ・ロサンゼルスに合計10年間滞在。アメリカではふたりの娘を現地校に通わせ、現地校のボランティア活動に参加。地区教育委員会で2カ国語諮問委員会の議長を3年間務め、海外から転居してきた親子をサポート。帰国後、海外子女教育振興財団「現地校入学のための親子教室」の講師を務め、現在は「渡航前配偶者英語講座」のWEB講師および「外国語保持教室」のサポートスタッフを兼務しているほか、NPO法人「子どもとメディア」アドバイザー、「日本マチュピチュ協会」理事、カウンセラーとしても活動している。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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