【ニューヨーク不動産最前線】
テナント保護法の新たなルール

昨年の6月に成立したニューヨーク州のテナント保護法の一環として、今年の2月から新たに「テナントは賃貸物件の仲介手数料を払わなくて良い」とするルールが施行されることになりました。

賃貸人(オーナー)がテナントを探す際にブローカーを使う場合は、これまではテナントがブローカー・フィーを負担するのが通例となっていましたが、この法令の施行により、今後はオーナーがブローカー・フィーを負担することに決まりました。ただし、賃借人(テナント)が直接不動産ブローカーを雇う場合、賃借人はそのブローカーにフィーを払うことになります。

NYのブローカーフィーを誰が払うかというルールが法令で決められたのは、実は今回が初めてです。これまでは、マーケットによってオーナーとテナントどちらが払うかというのが自然に別れていましたが、マンハッタンの場合は基本的に常に需要の方が勝っていたため(貸し手市場)、自然にフィーはテナントが払うというのが通例になっていました。

今回のテナント保護法の施行によって賃借人の負担が減るということで、賃借人はもちろん、メディアもこの法令を歓迎するムードに溢れています。果たしてそうでしょうか。

実はこの法令は、ブローカー・フィーのみならず、物件申込金、テナントのクレジットチェック・バックグランドチェックフィー等もオーナーが負担することを決め(テナントが負担するのは上限20ドルまで)、かつオーナーが預かることのできる敷金の金額も上限を設定しています。これまではクレジットヒストリーが良くない場合は、オーナーは敷金の積み増し等でリスクをカバーしていたのですが、それもできなくなりました。

オーナー側としては当然、これらのエクスペンスやリスク回避分を家賃に上乗せすることが予測されます。それによって家賃が値上がりするのは必至です。長期で見ると、最初にブローカー・フィーや申込金等を支払っても、毎月の家賃が低ければ総額で支払う金額はそちらの方がお得という結果になります。

実際にこれまでもNO FEE Apartmentというブローカー・フィーや申込金なしの物件はたくさんマーケットに出ていたのですが、やはりFee Apartmentに比べてレントは20%程度割高でした。ただし、初期費用が抑えられるため、賃貸期間が最初から決まっているテナントにはメリットがあります。テナント側がどのタイプの物件を選ぶか選択肢がありました。

今後はすべてフィー無しとなり、一見テナントが保護されているように見えます。しかし実際にはすべての物件のレントが値上がりし、かつテナント側の選択肢もなくなって、誰も得をしないことになるのではという気がします。

※仲介手数料支払いに関する法令については、2月10日時点でニューヨーク不動産協会がNY州に対して規制の差し止めを要求。州の裁判所はこの規制について一時差し止めを命じた。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japan(現)に入社。東京で外資系企業のオフィス移転担当ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務に。1999年より住友不動産販売NYで住宅ブローカーとして活躍。趣味は旅行とトレッキング。

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

注目の記事

  1. この原稿を書いているのは2020年6月12日。昨日、ニナの義務教育が終了した。オンラインでの...
  2. アラスカ州とカナダの国境地帯に広がるのは、世界最大規模の自然保護区。北米大陸最高峰の山々に世...
  3. コロナ禍の3カ月の自粛生活は、私たちそれぞれに、自分の忙しい生活を今一度振り返る良い機会とな...
  4. ニューヨークを拠点に、さまざまなセミナー、フェスティバルやディナー会などのイベント、質の高い日本食を...
  5. 疲労の原因には、精神的ストレス、身体的ストレス、生活環境ストレス...
  6. 2020年6月6日

    第74回 世界は変わる
    新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的大流行が起こってから、約2カ月が過ぎようとして...
  7. 2020年6月5日

    第82回 実践的教育
    この原稿を書いている2020年4月現在、全米は新型コロナウイルスのパンデミックの渦中にある。...
  8. アメリカ先住民族であるプエブロ族は2000年以上もの間、アメリカ南西部の広大なエリアで生活を...
  9. 新型コロナウィルスの影響により、2021年の入試の状況は変更となる可能性があります。 中学受験...
  10. 2020年4月5日

    第73回 明日の家
    最近、自己反省する機会があった。 家の売買を仕事としているので、ありとあらゆる家を見て...
ページ上部へ戻る