異文化同居

Pepper

ニューヨーク同様に、ここロサンゼルスも移民が人口の高い割合を占めているだろうと思っていたが、約4割だという。予想より遥かに多い。たくさんの人が米国を第二の母国に選び、ここで生きてゆく決意を固めた。その動機は何だったのだろう。第一は経済的理由だろうが、他の理由もあるはずだ。自分の自由意志で自分の国を選ぶのはとても恵まれている。そんな強い意志を持って住み始めた人たちは、日々この国の良き一員として社会に溶け込もうと、必死で努力しているに違いない。狭い日本から飛び出した夫と私は、広い広い米国に住む自由さと心地良さを楽しみ過ぎて、漠然とした未来像しか持たなかった。子供が20歳になり、日本と米国どちらの国籍を選ぶかで、親の最終国籍を決めようなどと呑気に構えていた。最初からこの国で生きてゆく決意をし努力した人に比べれば、明らかに出遅れた。

今、国際結婚という言い方が古臭く感じられるほど、異文化出身の結婚や同居は私の周りでは日常風景だ。私の子供の世代は社会認識も高く、頭で理解する限りでは、もう人種間の垣根がほぼないといってよい。しかし注意すべきは、私たちは頭でっかちになりすぎて頭が体をコントロールしていると思いがちであるということだ。体が我々に与える影響は想像以上に大きい。人間はまず動物であり、頭脳はその一部にすぎないことを思い知らされる。

私は国際結婚の経験がないので、これについて何かを語る資格はない。しかし周囲の友人たちの多くは、米国人夫。知っている限りでは、同国人同士以上の努力をしている。

娘家族を一例にとってみると、第一にアメリカ人夫とは体の大きさが違う。彼は娘や私と比べると体は約2倍ある。当然体感温度が違う。家族が我が家に宿泊する時は、冷暖房の温度の設定に迷う。皮下脂肪の多い彼は、夏は暑くてしょうがなく、冷房をガンガンかけたい。しかし細くて小さい我々は寒くて寒くて。あちらは暑いのを我慢し、こちらは寒いのを我慢する。反対に冬は彼は、寒さに強くTシャツ一枚で平気。我々は寒くて震えているから、見た目も構わずダウンジャケットを室内で着ている始末だ。夏も冬も冷暖房の温度をどちらの体感温度に合わせるかで迷う。来訪は嬉しいが、暑さ寒さに密かに耐えねばならず、彼らが帰ると自分の快適な室内温度で過ごせ、正直ホッとする。

一方、個人差もあるが生活の仕方がまったく違う。これは人種間の違いというより世代間の違いだが、行動半径が違う。若い米国人の興味の範囲は半端ではなく、新しい店は必ずチェックし、おいしいと評判を聞けば、そのために千里の道を遠しとしない。話題の飲み物、食事を試すことが生活スタイルとなっている。あれは食べた、評判の映画は見たという会話が意思疎通の潤滑油となり、同じ話題で喋れることが仲間意識を作る。

彼らの買い物の多さにも驚かされる。毎日玄関先に届くアマゾンの小包の数に、「節約する」とか「もったいない」とかいう感覚はほぼ皆無で、同じ世界に住んでいるとは到底思えない。

都会に住む若者たちは人種などまったく気にせず付き合い、学び、遊び、仕事する。これは実に羨ましい。世界が広がること間違いなしだ。親は異文化圏に生まれ育ち、米国に来て出産した子は米国の教育を受け、成長し大人になる。外ではまったくの米国人としてふるまっていても、家に帰れば違和感なく親の母国文化の中で生活している人もいる。彼らは上手にバランスを取り、2文化間を行き来する。それが異人種間の違いを無理なく理解する助けになっているのかもしれない。人種間の結婚や同居はますます混じり合い、限りなく融合して一つになっている。

米国を自分の国に選んだ人は、米国のこの誰も分け隔てをしないフランクさと、平等に挑戦できるチャンスがあることに魅力を感じたのではなかろうか。もちろん、どんな社会でも人生は公平ではない厳しい現実を誰でも知っている。が、未来に挑戦する自由が米国にはあり、より優れた価値観を受け入れ、理想的社会を目指す行動力はこの国の強みだ。人々が生き生きしている。自己のベストを尽くし自己実現できたら、社会に恩返しをする。成功と恩返しがワンセットになって始めてこの国では「成功した」という意味だ。なかなか魅力的な国である。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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