一生貫ける趣味

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

趣味といってもたくさんある。一時的に興味を持ち短期間熱狂的に没頭するものから、子どもの頃から好きで何気なく始めたものが結局は一生形を変えながら長期的に続くものまで、さまざまである。 

興味を持った運動を子どもの頃にはじめ、中学、高校、大学までそれに熱中する。子どもの頃習得した身体的能力は大きいから、大学まで続けば能力は高まり、県大会、全国大会出場選手になる。試合に勝っても負けてもその時の達成感、悔しさは生涯記憶に残る。仲間同士の一生変わらぬ純粋な友情もこの時に芽生える。 

社会人になればプロになれるのは一握りだけで、あとは就職だ。しかし、社会人としての務めを果たした後引退すると、若き日に情熱を傾けたスポーツにまた戻る人が多い。サッカーや野球のコーチを務める、自分の孫に教えるなど。 

昔、卓球に夢中になった私の知人は、引退後は日本から米国に遠征してきた卓球選手を自分の家に泊まらせ、試合会場に連れて行き、日本食の世話をするなど選手に尽くしている。ビジネスウーマンとして活躍してきた現役時代にはとてもできなかったことに今、熱中している。生きがいを再発見したようで、そばで見ていても微笑ましい。卓球仲間の日本での大会に合わせて帰国しては旧交を温める。50年の歳月を経たリユニオンは、特別に楽しく感慨深いだろう。当然、自分の孫達にもみずから教え、やがては孫に追い越される。コーチを付け、遠い試合会場にも行き熱心に観戦する。こういった一生貫ける趣味を持ち、次世代にもつなげてゆけば何かが残せる。年齢が変化すれば考え方、感じ方も変わり、味わいも変化する。仕事と趣味とまったく違う2分野を一生貫けることは、人生を豊かにするだろう。運動能力が並の私は、スポーツへの興味も平均並だ。きっと何か大きなものを失っているに違いない。スポーツは文句なくたくさんの人を魅了し、一体感を味わえる。 

私の場合は一人で過ごすのも好き。絵を描いたり、キルトを作ったり。YouTubeで好きな英国のキルト作家の、ありとあらゆるものが溢れた乱雑なようで整理された室内を見ると心底羨ましい。昔懐かしい家という雰囲気で、見栄を張らない作家のそのままの人柄が滲み出ている。たくさんの生地の端切れ、その色、柄の美しさは格別で、それを組み合わせてキルト作品にすれば心休まる夢の世界が広がる。背後に見える庭の風景は、イギリスの寒そうな気候を映し、雨の日は室内の旧式のストーブの暖かさがこちらにも伝わってくる。両親の家に帰ったような懐かしさ。屋外では庭が少しずつ広がり、別棟が建ち、小川が引かれる風景も、小さな自分だけのおとぎの国ができてゆくようで見ているだけでワクワクする。自分だけの小宇宙だ。 

絵を描くのも好きだ。昔は野心があり、画家として成功したいならニューヨークに出て、半狂人のように大胆で大きな作品を創らなくてはまったく相手にされないと思っていた。まず注目を浴びること。その後の長い長い戦いが本当の勝負。今はもうその精神力も体力もない。ただ、自分が美しいと思う絵を一つ一つ描きたい。自分のための美の世界。好きなものに没頭するときは時間を忘れ、一人の充実した世界に閉じこもるかけがいのない時だ。 

たくさんの人の趣味である園芸も大好きだ。カリフォルニアの気候は恵まれ、庭には春から夏にかけてありとあらゆる花々が咲き乱れ、この世の天国と言っても過言ではない。たくさんの鳥もやってくる。鳥たちの澄んだ響き渡る鳴き声はいつ聞いても心が癒やされ、気分が晴れる。庭にはビワの木がたわわに実をつけ、甘くて実が大きい巨峰はとても美味しい。    

野菜作りもトマトは間違いなく良く育つが、キュウリはまっすぐに育てるのが難しく、なすは外見は良くても実が固くなりやすい。しかし自分が育てたものには愛着があり、また土から収穫した新鮮な野菜は独特の甘さがあり、格別に美味しい。植物が育っていく過程を見るのは日頃忘れていた自然の営みを思い出し、子ども時代の甘酸っぱい記憶が蘇る。 

どんな趣味を持つかは個人の自由。自分が心底楽しめればその趣味に優劣はなく、一生貫ければ自分の人生に彩りを与えるのは確かだ。どこに住んでも、どんな人生でも、豊かな人生を生きたい。一生貫ける趣味を持つことは豊かな人生を生きる一つの手段だ。おもしろい趣味だったら、なお愉快だ。 

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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