経営を改善させる技術「ITと管理会計」

第一回 決算で一喜一憂しないために

3月決算の多い日本企業と異なり12月決算(暦年決算)が多いアメリカでは、そろそろ決算業務の準備に取り掛かっている会社(日系企業のグループ会社を含む)も多いのではないでしょうか?

日常の現金の出納管理、経費精算、受注・出荷・売上の集計、棚卸資産の受け払い管理等に加えて、年度末決算では、棚卸資産の実地棚卸、固定資産の減価償却計算、賞与などの引当金の計上等の決算特有の業務が必要になります。そして、決算がまとまると次は税金計算と矢継ぎ早に決算業務に忙殺され、気が付けば3月の声を聞くこともあるのではないでしょうか。 本コラムでは日系企業から出向して米国子会社の経営に奮闘するタジマ君と、管理会計とITのスペシャリストであるミゾグチ先生との対話を通し、経営を改善する技術である「管理会計とIT」について説明していきます。

12月のある日、いつもの居酒屋 Fujiにて…

タジマ君: 先生、今月が決算なんですけど本当に憂鬱なんです。ウチのバッファローフーズUSA、売上は順調なんですけど、利益が全然残らなくて。もっと稼げてるはずなんですけど、決算書を見ると全然ダメで。数字が冷たく現実を突きつけてくるんですよねぇ。

ミゾグチ先生: あぁ、よく聞く話かも。タジマ君、まず大事なのは、決算を単なる作業ではなく、経営の健康診断として捉えることだよ。一喜一憂するだけでは前に進めないんだから。

タジマ君: 健康診断…確かに、今のウチは不健康かもですね。売上は伸びてるけど、全然利益が出てないんですよ。本社からも怒られてばかりで。

ミゾグチ先生: 売上が順調でも利益が出ない理由は、予算管理やコスト管理が十分でない場合が多いんだ。それに、決算の数字を見て驚くようなら、月次での進捗管理ができていないのではないかな?

タジマ君: うーん、正直、普段はあまり数字を見ていないというか、会計事務所さんから報告が来るまでわからないことが多いんです。結果を見てから、『もっとこうしておけば良かったな』って後悔することが良くあります。

ミゾグチ先生: なるほど、それはちょっともったいないなぁ。例えば、決算期が来てから『利益が予想以上だった!』と気づいても、そのお金を使って設備投資やマーケティングをするチャンスを逃してしまうことになる。逆に、赤字だと後から気づいてバタバタするのも避けたいよね。

タジマ君: 実は、月次どころか、数字を見るのがどうも苦手で…。僕、営業畑の人間なんで、感覚で動く方が得意で、数字を使って戦略を立てるのがどうにも苦手なんです。

ミゾグチ先生:もちろん 感覚は大事だよ。でも、それだけでは持続的な成長は難しいんだよね。数字には客観的な事実が詰まっているんだから。タジマ君、バッファローフーズUSAでは次の4点に思い当たることはあるかな?

予算が策定されていない
そもそも年間の目標や計画を数字で示していない会社が多い。あるいは、予算があっても売上高や利益などの金額が「過去の実績と同様に対前期比5%増」みたいに、根拠が曖昧な目標で終わってることも多いね。
② 予算を達成するモチベーションが低い
 従業員が『自分の仕事が会社の目標にどう繋がるか』を理解していない、もしくは成果を出しても適切に評価されないことで、やる気が削がれてしまうんだ。
③ 予算の進捗管理がなされていない
 年度末決算に至る以前の四半期決算や月次決算などにより定期的なマイルストーンチェックをしているか、月次で売上高や費用の予算と実績の差異は把握していたとしても差異の原因究明が不十分といったことも問題だね。
④ 的確な改善策が立てられない
 例えば、売上が予算を下回っている時に「売上を上げろ!」といった掛け声だけで改善策が曖昧だと、現場は困惑するだけだよ。

タジマ君: うちの会社、全部当てはまってる気がします…。具体的にどう改善したらいいんでしょう?

ミゾグチ先生: そうなんだね。でも、大丈夫だよ。これから経営の基本である『PDCAサイクル』を効率的に回す方法、つまり、計画(Plan)、実行(Do)、測定・評価(Check)、改善(Action)の4つをどう活用するかを一緒に学んでいこう。それと同時に、ITを使ってどんなデータを集めて、どう活用すれば良いかも具体的に説明するからね。

タジマ君: ありがとうございます!!あ、でも、ITか…。僕、パソコンは得意じゃないんです。仕事でエクセルをよく使うんですが、数式がおかしくなったり問題が多くてストレスが酷いんです。

ミゾグチ先生:そこまで 心配しなくても大丈夫だよ。難しい作業は外注してもいいし、今は初心者でも扱えるツールがたくさんあるしね。これから具体例も交えながらじっくり話していくから、楽しく学びながら自分の会社に活かしていこう。

タジマ君: わかりました!先生、今夜もありがとうございます!

ミゾグチ先生: どういたしまして。それじゃあ、冷めないうちにソフトシェルクラブの天ぷらを食べようか!

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Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

ライタープロフィール

中島恒久:(Fujisoft America, Inc. COO)
2004年に抽選永住権を取得後、渡米。ベーシストとして活動しながら飲食業、旅行業、食品卸業などで経験を積み、2015年より現職。起業の経験も持つ。グロービス経営大学院にて溝口先生から管理会計を学んだ。

溝口聖規:(公認会計士、グロービス経営大学院専任教授)
グロービス経営大学院専任教授。資格:公認会計士、証券アナリスト、公認内部監査人。書籍:「財務諸表分析 ゼロから分かる読み方・活かし方」PHP出版/MBAアカウンティング(第4版)ダイヤモンド社 連載:週刊経営財務「会計知識録~企業の会計・財務活動を解読~」

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