経営を改善させる技術「ITと管理会計」

第7回 「え?まだ先月分締まってないの?」というよくある悩みを解決します!

いつもの居酒屋Fujiのカウンター席に座るタジマ君は、いつになく元気がない様子でビールをちびちびと飲んでいます。

ミゾグチ先生:「タジマ君、どうしたんだい?珍しくお酒が進んでないみたいだね。」

隣に座るミゾグチ先生が、枝豆をつまみながら声をかけます。

タジマ君:「先生……もうイヤになりますよ。月次決算が上手くいっていなくて……。」

タジマ君はため息混じりにグラスを置いた。

ミゾグチ先生:「なるほど、月次決算は多くの会社で共通する課題の1つだね。ちなみに、何が問題なのかな?」

タジマ君:「ええ……ウチの会社、月次決算を締めるのに2週間かかるんです。そこから部門別の実績レポート作成、予算との差異分析、コメント集約、さらにKPIや受注・販売データの集計作業を経て、月次決算検討会の会議資料の作成まで含めるとさらに5営業日かかっていて、結局、前月の決算検討会が翌月末近くにしかできないんです。」

ミゾグチ先生:「なるほど。月次決算のスピードだね。確かに、それだと予算実績の差異の原因分析も改善のためのアクションも遅れをとることになるね。」

先生は静かに頷き、福井の地酒、黒龍の冷を少し口に含む。

タジマ君:「そうなんです。それに、親会社の日本本社の月次決算は月初5営業日で締めているんですけど、ウチのデータが全然間に合わないから毎月10営業日前後に開催される本社の取締役会での報告も1か月遅れなんです。前々から、親会社に『月次決算を早期化できないのか?』って指摘されて……。でも現場が全然動かないんです。それに、そもそも、親会社とは人員やシステムなどのリソースが違いますからね、そう簡単にはいかないですよ。」

ミゾグチ先生:「まあまあ。では、タジマ君から見て、一番の問題点、ボトルネックは何だと思う?」

タジマ君:「いっぱいありますよ。まず、伝票入力。日々入力すればいいのに、みんな月末にドカッとまとめて入力しています。それに、部門からのデータ提出も遅れがちです。経費精算や売上データ、締め日過ぎても揃わないんです。いつも、口を酸っぱくして早くしてって言っているんですけど。さらにExcel手作業だらけでミスも多い。二重チェックで余計に時間かかっています。特定の人しか分からない処理もあって、その人が忙しいと全部止まる。
承認にもサインが必要で上司が出張だと承認が止まるし……。販売管理や在庫管理システムと会計システムの突合もめちゃ大変で……。
正直、三重苦です。資料が集まらない、作業が属人的、手作業だらけ。」

ミゾグチ先生:「なるほど、課題は多そうだけど、多くの会社で見られる典型的なものが多いね。」

タジマ君:「先生、なんとか改善する方法は無いでしょうか?」

ミゾグチ先生:「そう焦らずに(笑) 一足飛びに課題を解決しようとすると、現場がしんどくなるよ。また、ジェームズ君からクレームが来るかもよ(笑)」

タジマ君:「おっと、それは避けたいです。ジェームズとも最近ようやく良い関係になりつつありますし・・・」

ミゾグチ先生:「まずは、どこが月次決算作業が、スタックしているかを可視化することが大切だよ。例えば、伝票入力のどこで時間がかかっているか?、資料提出が遅いのはどの部門でそれはなぜか?、突合作業でモタついてるのはどこか?といった点をちゃんと洗い出すんだ。」

タジマ君:「可視化、ですか……。」

ミゾグチ先生:「そのとおり。例えば、現場にヒアリングシートを配って、各工程の作業時間や滞留ポイントを書き出してもらう。それを基に、月次決算の業務フローマップを作って、『誰が』『いつ』『何を』するかを図で整理すると、無駄や重複作業を発見しやすくなるね。」

タジマ君:「なるほど。」

ミゾグチ先生:「その上で、改善策を積み上げていく。たとえば――」

先生は指を折りながら言った。

(ミゾグチ先生)
「1、伝票や売上・仕入データを日次または週次で入力・確認。経費精算もモバイルやクラウドでその場で処理させる。
2、手作業の自動化。定型仕訳は会計システムの自動仕訳ルールに。債権債務の突合はRPAを使う。証憑管理は電子化。
3、部門連携。月次決算の目的を各部門に伝えて、提出状況をダッシュボードで可視化する。
4、承認フロー簡素化。電子承認システムを入れ、不要な承認は削る。
5、速報値と精度のメリハリ。月次は速報重視、精度は四半期・年次で追う。」

タジマ君:「……先生、それ全部一度にやるのはムリです。」

タジマ君が苦笑した。

ミゾグチ先生:「もちろんだよ。一度に全部やる必要はないんだ。まずは現状を可視化すること、そして次に小さな改善を積み重ねていく。徐々にIT化・自動化を進めていけば良いと思うよ。間違っても、ただ『締め日を早くしろ』と現場にプレッシャーをかけるだけじゃ、反感を買うことになるから気を付けないといけないね。月次決算早期化は、経理部門だけでなく、現場を含めた全社で取り組む課題、プロジェクトだからね。」

タジマ君:「……確かに。先生の話、目からウロコです。「月次決算早期化プロジェクト」みたいなプロジェクトとしてぶち上げると、社内のモチベーションアップにもなりますかね。」

タジマ君はグラスの残りのビールを飲み干し、キリッとした表情になった。

ミゾグチ先生:「そうだね、月次決算を早期化することによる作業の効率化や省力化といった従業員の皆さんのメリットを理解してもらうと良いと思うよ。」

タジマ君:「先生、ありがとうございます。僕、明日、月次決算フローを洗い出して、ボトルネックを可視化するところから始めます!……すみませーん、ビールお代わり!」

その元気な声に、ミゾグチ先生が微笑む。

ミゾグチ先生:「よし、ようやくいつものタジマ君らしくなったね。その調子で頑張って!」

先生もグラスを掲げ、夜の居酒屋Fujiに乾杯の音が響いた。

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Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

ライタープロフィール

中島恒久:(Fujisoft America, Inc. COO)
2004年に抽選永住権を取得後、渡米。ベーシストとして活動しながら飲食業、旅行業、食品卸業などで経験を積み、2015年より現職。起業の経験も持つ。グロービス経営大学院にて溝口先生から管理会計を学んだ。

溝口聖規:(公認会計士、グロービス経営大学院専任教授)
グロービス経営大学院専任教授。資格:公認会計士、証券アナリスト、公認内部監査人。書籍:「財務諸表分析 ゼロから分かる読み方・活かし方」PHP出版/MBAアカウンティング(第4版)ダイヤモンド社 連載:週刊経営財務「会計知識録~企業の会計・財務活動を解読~」

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