工期を守り日本企業の進出を支援する

TOP INTERVIEW アメリカ市場に勝負を賭ける日系企業のトップに聞く。

日系企業の米国進出を支援し、店舗やオフィスの設計・施工管理、出店・移転のコンサルなど総合サービスを提供するYT Resolution Services LLCのPresident、高崎康裕氏にアメリカ進出の難しさや注意点について話を聞いた。

弊社は店舗やオフィスの設計施工サービスを主として、その事前段階の米国進出に関わるコンサルティングサービスや物件に関わるサポートサービスも行っております。

流れとしては、大きく3つのステップに分けられます。

1つ目は創業当時から行っている日本企業の米国進出に関わるコンサルティングサービスです。
米国における法人設立登録(定款作成、事業計画の作成など)、ビザ申請、保険手配、現地人材の紹介、銀行口座開設、ファイナンスアレンジ、不動産ブローカーや専門弁護士の紹介など、米国進出の初期段階で必要となる業務のサポートを行います。

2つ目として、上記のような米国企業としての基礎作りが完了した後、店舗やオフィスなどの拠点探しの段階では、物件に関わるサポートサービスを行っています。
具体的には、不動産ブローカーなどから候補として挙がってきた物件について、専門家の立場で調査および評価を行い、物件の特性や問題点、予定されている事業計画がその物件で実現可能かどうかなどを検証し、具体的なテストレイアウトもご提案します。

さらに、賃貸契約の段階では、社内法務にて賃貸契約書の確認を行い、将来的に問題となりそうな点やお客様にとって不利な点がないかをレビューします。

弊社では直接ブローカー業務は行っておりませんが、不動産ブローカーのライセンスは保有しておりますので、専門的知識を持ちながらお客様の目線・立場になって評価を行います。

3つ目が設計と工事の段階です。
最終的に物件が定まりましたら、お客様のご要望をヒアリングしながら設計・見積もりを行い、お客様の予算の調整後に設計・施工の一括管理を行っています。

工事に際して必要となる建築局の許認可申請・取得についても、複雑な法規や建築コードを熟知した弊社のスタッフが責任をもって行います。

アメリカでは工事が遅れるのが当たり前と言われていますが、弊社では長年の経験に基づく施工管理技術とマネジメント力を駆使し、工期通りのお引渡しを実現しており、日系大手企業や政府系機関からも信頼をいただいております。

弊社の事業実績はウェブサイトからご覧いただけます。
https://yt-design.com/offices

もともとの渡米のきっかけ

もともとゼネコン(総合建設業者)で海外事業の企画、海外進出企業のフォローを手掛けていました。30代の後半にロンドンに赴任し、日本から欧州に進出する企業の事業展開を支援する業務を担当しましたが、バブル崩壊後の米国不動産投資事業の清算業務のためNYに転勤してきたのが30年前です。その業務も一段落した際に、サラリーマン生活をそのまま続けるよりも、残された時間を自分で満足できるように使っていきたいという気持ちと、アメリカの学校生活に慣れた子供達の教育問題も考え、米国で独立するという道を選びました。

日本とアメリカのビジネス感覚の違い

元々建設業は、ローカルの法規やルールに従い、その社会でのネットワークを活かしながら、現地の資材や労働力を活用して、目標とする施設を作り上げていくものです。

従って、日本の建設事情と米国のそれとは、ルールや商慣習も異なってきますが、日本からのお客様にはそれまで慣れ親しんだ日本流のやり方に固執したり、日本での流儀を押し通そうとする方もいます。

日本であれば、見積金額が出れば、その金額で工事が完成するとの理解が一般的です。一方アメリカでは、細図面がない、もしくは詳細仕様が決定していない時点では意図的に安い見積もりを出し、その後詳細な図面が提示された時点で、元の見積の範囲には含まれていなかったという理由から、高額の追加工事金額の請求が出されてくるということがよくあります。

また、完成時期の約束もしませんので、最終コストは幾らかかるのか、いつ完成するのかは最後まで分からないというのが、アメリカの建設業者を起用して工事を進める場合の問題だと思いますし、そこに管理の難しさもあると思います。

工期を守る努力は惜しまない

工事に要する時間を考える上では、アメリカに長く住む人たちと日本人の時間に対する意識の差を考慮しておく必要があると思います。日本では、約束された日に、予定されたものが届くのは当たり前だと思われていますが、アメリカでは時間通りに材料が届くことは寧ろ珍しいという現実があります。そしてこの「モノが予定どおりに届かない」というのが、工期遅延の主な理由にもなっています。

その為、如何に必要な資材を予定どおり確保できるかが、工期管理上重要な鍵となってきます。私共が、工期の保証を謳い、これまでそれを守ってこられたのは、現場の労務管理だけでなく、この資器材調達方法の工夫と調達ルートの多様化も確保出来てきたことによると思います。同時にその努力は、不断に続けていかなければならないと思っています。

アメリカ進出時は謙虚で柔軟な姿勢を大切に

日本から米国での事業の成功を目指して進出されたにも拘らず、残念にもその目的を達せずに撤退されていった方々も勿論いらっしゃいます。その中には、施設の建設期間が大幅に遅れたことから、資金計画や売上、配員計画も含め、所期の事業計画に大きな齟齬をきたしたというケースも見てきました。その際の反省として皆さんが述べられていたのは、現地での事業の成功のためには、現地事情に精通した信頼できる専門家を早期に見つけ、その人たちの意見を素直に取り入れる姿勢が足りなかったのではないかということでした。

施設の建設についても、見積金額の安さだけにこだわるあまり、その後の品質管理や工程管理体制が充分でない会社に任せてしまったということへの反省も口にされていました。

日本での成功体験をアメリカ進出にも当てはめようという気持ちは理解できますが、法制度も文化も、またそれに基づく商慣習や常識さえも違う地で活動することには、多くのリスクが伴うことを忘れてはならないと思います。

それまでの経験や知見を活かしていくことはもちろん必要ですし大事ですが、併せてアメリカでビジネスをやるためには新たに何が必要か、自分たちの経営資源の強みは何か、それを支える財政的なバックグラウンドは大丈夫かなどを再確認し、その上で現地の意見を尊重しながら協力を仰ぐ柔軟性も求められるのではないかと思います。

野菜作りが最高のリフレッシュ

自宅の裏庭に畑を作り、季節の休日には野菜作りをしています。有機栽培で農薬も使いませんので、安心して野菜の味も楽しめますし、土に触れていると気持ちも鎮まります。 また収穫できた時の喜びだけでなく、うまく育たなかった時には、種蒔きから育苗、植付、水遣り、施肥などの段階に沿ってその原因を探り、手抜きや管理ミスの反省をすることも求められますし、それは自分を見つめ直す良い時間だと思っています。

PROFILE
高崎康裕
YT Resolution Services, LLC社長
大手ゼネコン会社の駐在員としてNYに赴任。その後2002年にYT Resolution Services, LLCを創業。レストランや店舗の新規出店、オフィスの移転・改修に関するコンサルティング、会社設立から設計・施工管理、家具の選定などのベンダーマネージメントまで、トータルなサービスを提供する。
https://yt-design.com

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