アメリカ大学進学のファイナンス②:奨学金事情

前回記事では大学進学費用の水準やトレンドについて、確認しました。今回はそれをまかなう大きな資金源の一つ、奨学金について見てみましょう。

奨学金の重要性と特徴

下のグラフは大学費用の資金源を見たものですが、奨学金(GrantsおよびScholarships)は親の収入・貯蓄に次ぐ大きさとなっています。

(出所)Sallie Mae (How America pays for Collage 2024)

アメリカの奨学金は日本と違って給付であり、返済の必要はありません。奨学金はGrants(Need-Based)とScholarships(Merit-Based)に分かれます。

Grants(Need-Based)とは

Need-BasedのGrantsは、以下の算式に基づいて家計の負担力(Student Aid Index)に応じて連邦政府、州政府、大学などが支給する奨学金です。

例えば、Cost of Attendanceが7万ドルの大学に対して、生徒の家庭のSAIが2万ドルであった場合、Financial Aid Needは5万ドルということになります。ただし、Financial Aid Need全額が支給されるとは限りません。

どのぐらい支給されるかは大学ごとの財政力や方針によります。なかには”Meet 100% of Demonstrated Need”をうたって、Financial Aid Need全額がまかなわれるように支給する大学もあります(ローンやWork Studyを含む場合あり)。したがって、進学する大学を調べる際には、Financial Aidの支給方針についても確認しておく必要があります。

多くの大学は家計の負担力(Student Aid Index)を、提出されたFAFSA(Free Application for Federal Student Aid )フォームにより評価します。一部の大学は、CSS Profile を求めるところもあります。

下表は、一定の前提(夫婦・子供2人、NY州在住など)で算出したStudent Aid Indexの計算例です。世帯収入や資産が増えるほどStudent Aid Index(家計の負担力)が高くなる(Financial Aidは減る)ことがお分かりになると思います。個々の家庭のStudent Aid IndexはこちらのFederal Student Aid Estimatorで試算することができます。

(出所)J.P Morgan Asset Management (Collage Planning Essentials, 2025 Edition)

Scholarships(Merit-Based)とは

Merit-BasedのScholarshipsは、学業やスポーツ、海外活動の実績や才能に対して支給されるものです。例えば、University of AlabamaはACT/SATスコアとGPAに応じて、以下のテーブルを示しています。

(出所)University of Alabama

またUniversity of Denverは、出願者のAcademic Informationを基準に以下のMerit Scholarshipsがあることを開示しています。

(出所)University of Denver

したがって、志望大学に大きな金額のMerit-Basedの奨学金プログラムがある場合、ACT/SATスコアやGPAを上げるために時間やお金をかけることは、(学生アルバイトに時間をかけるよりかなり大きな)金銭的な見返りがあることになります。

大学が提供するScholarships以外にも、様々な組織や団体がPrivate Scholarshipsを提供しています。興味のある方は、Federal Student Aidのガイドを参考に探してみてください。一つ一つの金額は小さくなりますが、積み重なれば一助になるでしょう。

調査・検討が重要

このように見てくると、大学選びの際に費用や奨学金について調査・検討が必要なことが分かります。

具体的には、
⚫︎志望大学のCost of Attendanceを調べる
⚫︎家庭のStudent Aid Index
 ▶︎Federal Student Aid EstimatorでSAIを試算
 ▶︎Grants(Need-Based)が見込めるか否か
  これには志望大学のNet Price Calculatorを活用するといいでしょう。
  各大学が提供していて、大学名とNet Price Calculatorで検索すると見つか  
  ります。
 ▶︎Grants(Need-Based)が見込めない場合、学生の成績等でScholarships
  (Merit-Based)が期待できそうか
⚫︎志望大学のFinancial Aid Programの方針
 ▶︎Grants(Need-Based)重視かScholarships(Merit-Based)重視か
 ▶︎Grants(Need-Based)重視の場合、100% of need metか否か
 ▶︎100% of need metの場合、ローンやWork Studyを含むか含まないか
といったことを調べ、実際の家計事情に応じて志望大学の選定・絞り込みに活用するとよいでしょう。

奨学金でまかなわれない大学進学費用は、自己資金か学生ローンで準備する必要があります。次回は、529プランなど税制優遇措置を活用した自己資金の準備方法について解説します。  

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後藤浩 (Hiroshi Goto)

後藤浩 (Hiroshi Goto)

ライタープロフィール

Goto Financial Advisory LLC 代表
東京大学経済学部卒。早稲田大学大学院経営管理研究科修士(MBA)第一生命、PwC勤務後、年金基金向け運用コンサルタント、米系資産運用会社の執行役員など25年の資産運用業界経験を有する。2023年に在米日本人のためのフィナンシャル・プランニング法人、Goto Financial Advisory LLC設立。 リタイアメント・プランニングに役立つブログ多数掲載中。 2019年よりテネシー州在住。Sister City of Nashville 理事。資格:CFA協会認定証券アナリスト、米国税理士、認定ソーシャル・セキュリティ・アナリスト

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