海外教育Navi 第69回
〜母親として、渡航に対する不安と心構え〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.母親の私が引っ込み思案で外国語も苦手です。渡航に前向きになれるアドバイスをください。

「考え方1つで物事は180度変わります」

答はとってもシンプルです。

前向きになりたいとの気持ちがあればもう、半分それを手に入れたのも同然です。あとは、いろいろなことを前向きに考えるだけでよいのです。人間は面白いもので、物事を悪い方向に考えていると悪い方向に進んでいきますし、よい方向に考えているとよい方向へ進んでいくものです。

たとえば、「海外に滞在したらどんなよい経験をさせてもらえるのだろう。素晴しい人や文化、習慣、自然景観、食事等々と出会えるかもしれない」と想像してみてください。それも何年もかけて経験させてくれる、こんな素晴しいことってあるでしょうか! この海外駐在は新しい環境と出会い、視野を広げ、自分を成長させてくれるチャンスだと考えてみませんか。

もちろん新しいことを始めるときには誰にでも不安はつきものです。引っ込み思案ならなおさらでしょう。それらの不安をなるべく少なくして達成感に変えていくための心構えを5つ、経験を交えて記してみました。

(1)自分を認めて褒めてあげましょう

人は何かに失敗すると、自分はダメな人間だと落ち込みがちです。失敗してはならないという気持ちが根底にあるからネガティブになるのです。

むしろダメな部分がわかったことは行動を起こした結果の気づきですから、行動修正を見つけ出した自分は偉いと褒めてあげましょう。

(2)できるだけ人前に出る機会を増やしましょう

海外駐在に子どもを帯同すると、学校の手続き、習い事、子どもの友達のママたちとの会話など、現地の言語ができなくても行動を起こさざるを得ない場面に折々直面することになります。子どもを通して知り合ったママ友は大切な地域情報源にもなります。勇気を出して行動してみましょう。

私はアメリカにいたころ、毎朝、子どもをスクールバス停まで送っていました。同じ顔ぶれのママ友と当然親しくなり、バス停で井戸端会議が始まります。

ある日、ママ友のひとりが自宅の水道の蛇口が故障して修理業者を呼ぶことに、それも早朝。電話帳で調べたら24時間サービスがあり、すぐ駆けつけてくれて助かったと話してくれました。まさかその3日後、我が家のトイレが朝の4時に床一面浸水することになるとは! さっそく電話帳で24時間サービスの修理業者を調べました。結果、早朝にもかかわらず駆けつけてくれました。早朝料金は加算されましたが、すぐに使用できてホッとしました。

ママ友からは子どものイベントや生活の情報等をたくさん教えてもらいました。

また、いま私が講師を務める「渡航前配偶者講座」の元受講生から次のような手紙をもらったことがあります。ことばにとても不安を抱えながらイギリスに赴任されたかたです。「案ずるより産むがやすし! 意外と身ぶり手ぶりと短い単語で話が通じ、自信がつきました!」

ことばに関していえば、現地のことばを最初からうまく話せる人は少ないのです。むしろできない自分を示した方が相手も助けてくれることを私は何度も経験しました。現地のことばはサバイバルに必要なものから学習していけばよいのです。

アメリカ滞在時、友人から地域の「doll making」クラスに誘われました。クリスマスを控えて大きなMr. and Mrs. Santa Clausの人形を手づくりするクラスです。手作業が不得意な私でしたが現地の60代のおばさまたちにまじり、完成させることができました。そのなかのおひとりとは帰国時までおつき合いが続きました。ちょっとした行動で自分の輪を広げていくことができます。趣味仲間ができると、居場所もできて、抵抗なく参加できるようになります。自分の好きなことに参加してみましょう。

(3)恥をかくことを恐れないで

人と話すとき、ドキドキして声が小さくなったり、目を合わせないようにしたりしてしまいがちですが、大きな声で口角を上げて話しましょう。

アメリカ・ワシントンに赴任されたかたから「自分は英語もできないし、引っ込み思案ですが、小学生のふたりの子どもを現地校に通わせることになり、学校の様子もわからないので、勇気を出して小1の息子のクラスでボランティアをやることにしました」とメールが届きました。結果、「子どもの学校の様子はわかるし、先生も英語のできない私に丁寧に話してくださり、なんとか乗りきっています」とのことです。彼女の前向きな行動にエールを送りました。まずは母親自身が自分と向き合うことが大切です。そして、少しずつ外に向けて行動していきましょう。

→「第70回 〜母親として、渡航に対する不安と心構え〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員

海外子女教育振興財団「渡航前配偶者講座」講師
小木曽 道子

ドイツとアメリカ・ロサンゼルスに合計10年間滞在。アメリカではふたりの娘を現地校に通わせ、現地校のボランティア活動に参加。地区教育委員会で2カ国語諮問委員会の議長を3年間務め、海外から転居してきた親子をサポート。帰国後、海外子女教育振興財団「現地校入学のための親子教室」の講師を務め、現在は「渡航前配偶者英語講座」のWEB講師および「外国語保持教室」のサポートスタッフを兼務しているほか、東京都青少年・治安対策本部青少年課青少年応援ナビゲーター、「日本マチュピチュ協会」理事、カウンセラーとしても活動している。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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