運河とフリーゾーンが形成するパナマ経済

15世紀以降、その立地から大西洋と太平洋とを繋ぐ世界の十字路として、また中南米諸国のハブとして大きな役割を果たしてきたパナマ共和国。ほかの国と比べると、やはりその地理的優位性(およびパナマ運河)が一番の特徴として挙げられることが多いですが、この国を中南米の中でさらに独特の地位に押し上げているのは、その国内に流通している「ドル化経済」が一つの要因といえます。

1914年に完成した「パナマ運河」は、1999年に本国へ完全返還されるまで、建設から管理まで一貫して米国が行ってきました。パナマ運河を中心とした一定のエリアは、米国が主権を持つ特別地域でした。いわば飛び地のような地域だったのです。返還後はその一切の権利がパナマに譲渡され現在に至っていますが、その影響でアメリカとの繋がりは強く、国内通貨「バルボア」もアメリカドルと等価。

今回はこれらの観点から、現在のパナマ経済についてご紹介していきます。

世界の物流を支える重要拠点・パナマ運河

パナマ運河は全長約80km、最大幅192m、高低差は26m。同運河を航行する船舶は膨大な量にのぼり、東西両洋を結ぶため重要性も極めて高くなっています。この膨大な需要は、運河周辺にさまざまな産業を立地させることになりました。建国の経緯からいってもパナマ共和国はパナマ運河計画があって初めて成立しえた国家であり、経済的にもそのほかの面においてもパナマ共和国は運河に多くを負っています。

首都であるパナマシティは、運河による経済活動を基盤として大都市となっていきました。運河の両端に位置するパナマ市とコロン市にはパナマの経済活動の75%が集中しており、この両市の経済活動のかなりが運河に直接関係したものや、運河建設による産業基盤整備によって新たに生まれたものです。

運河を行き交う船への物資の供給や船舶の修理用のドック、船員たちへの商品・サービスの提供、運河の修繕・維持管理などは運河に直接関係した産業。ほかにも運河の両端に整備されたパナマ市のバルボア港やコロン市のマンサニージョ港は海運の拠点となっており、なかでもマンサニージョ港はラテンアメリカ最大のコンテナ港となっています。

カナダのオンタリオ州にあるウェランド運河やリドー運河のように、パナマ運河は起点から終点までの間に水位の高低差を船舶が越えていくため、閘門(こうもん/ Lock)式で建設されています。閘室は三つあり、各閘室の長さは約305m、幅約33.5m、水深約12.6m。この閘室に収容可能な船舶のみが運河を通航可能であり、その通航できる最大船サイズは国際的にも「パナマックス」と呼ばれています。

完成からおよそ100年を過ぎた2016年にはさらなる拡張工事を完了させ、新たな閘門が誕生したことで、通航可能な最大船サイズはそれまでの2倍になりました。開通式の話題はきっと記憶にも新しいことでしょう。

南米最南端を通らずに大西洋と太平洋を抜けることが可能になったことで、建設当時の利用国はアメリカやイギリス、現在は最多順にアメリカ、中国、チリ、日本、コロンビアなど多くの国々が利用。年間およそ2億トンの貨物が約1万4千隻の船舶により、運河を経由して輸送されています。

航路としては、アジアー米国東岸航路が通航船舶トン数、輸送貨物トン数ともに約35%のシェアを占めて第1位。通航料は船種や船舶の積載量、船舶の大きさに基づきパナマ運河庁が定めています。もっとも標準的な貿易船で約4〜5万ドル、最高額は31万ドル以上にもなります。

免税・租税回避の実態は

パナマでは主要産業である第3次産業(パナマ運河運営、コロン・フリーゾーンを活用した中継貿易、国際金融センター、便宜置籍船制度、商業等)がGDPの約8割を占めます。海外投資を促す各種制度の導入などにより、運河、港湾、コロン・フリーゾーン、金融、観光、建設の各セクターが発達したのです。現在のパナマ経済を形成する要因の中でも特に注目の点を、以下に紹介します。

1.コロン・フリーゾーンの中継貿易
世界的な物流があることから、1948年に政府の自治機関として設立された自由貿易地域・輸出入センター。パナマ運河の太平洋側、カリブ海に面したコロン市に設置された、関税や消費税など各種を免税にできるエリアです。交通の要衝であることを利用して整備され、今や世界第2の規模を誇る自由貿易地区へと成長しました。日本は利用国としては第11位に位置します。

2.パナマ文書
2016年に報道された「パナマ文書」もまた、世界に衝撃を与えると同時に「パナマ」の名前を広めました。世界中の企業や富裕層などが、タックスヘイヴン(租税回避地)で租税回避をしていた実態が明らかになったのです。2017年には「パラダイス文書」も公表されました。タックスヘイヴンとして知られる場所としては、英国領ケイマン諸島、バージン諸島などのカリブ海の島国や、米国内デラウェア州などが挙げられます。

タックスヘイヴンの存在に関しての意見には賛否両論あります。いうまでもなく、租税回避は国家にとっては望ましくないもの。経済協力開発機構(OECD)の15年の調査によれば、租税回避によって国の歳入が世界全体の合計で年間2400億ドルも失われているといいます。また、税収が減ることで国の公共サービスがなくなったり、税金を真面目に払っている中間層やほかの企業などにとってアンフェアになったりする、というのはその通りです。

しかし一方で、タックスヘイヴンは国境を超えて集合的に投資を行う際に、二重に課税されるのを防ぐことを保証するものでもあり、企業は合併や買収など国境間のビジネスもスムーズにできるようになるので、一概に悪いものだとは言い切れません。そうした見方が軽視され、今回のニュースのように名前を取りざたされた人たちは、「タックスヘイヴンで税金逃れをしている」という悪いイメージを植え付けられてしまうのです。

3.周辺経済への影響
パナマ運河の周辺地域は1903年から1999年までアメリカ施政下の運河地帯となっていました。そのため、アメリカ政府の手によって学校や病院をはじめ、アメリカ人たちが生活していくのに十分な社会基盤が整備されたのです。その後、パナマ運河の返還によってこれらの施設はパナマ政府に無償で譲渡され、パナマ政府は両洋間地域庁を設立してこれらの施設や土地の開発を進めました。これによって運河沿いには研究施設や観光施設が相次いで建設され、ガトゥン湖畔には2つのリゾートホテルもオープンし、運河の風景と熱帯の自然を楽しめるようになったのです。

次回のコラムでは、パナマ運河拡張後の最新情報についてお届けします。

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オンリーワントラベル・ONLY ONE TRAVEL

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ライタープロフィール

中南米ツアー専門旅行会社。「一生に一度。世界でただ一つ。お客様にとって”Only One”といえる旅を提供し、共有すること」を理念に、2012年設立。本社パナマと中南米6カ国に置かれた拠点から各国の魅力を最大限に活かしたツアー企画・展開を行う。

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