第24回 意外と知られていない
コルクについての常識と非常識
文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)
- 2015年1月5日
ワインが瓶に詰められ、コルクで蓋をされるようになったのは、300年ほど前のお話。それまでは、樽からコップに注いで飲んだり、ヤギ皮で作った水筒に詰めて持ち歩いていたそうで、当時のワインの質(の悪さ)が伺えます。それにしても、ガラス瓶の蓋として、樫の木の皮を剥いでコルクを作った知恵は、たいしたものです。
コルク樫の樹皮は、軽くて圧縮性と弾力性に富み、断熱に優れ、液体に対しては不浸透性があり、腐りにくいという優れもの。まさに、長い間ワインを封印するのに、これ以上優れた、自然の産物はありません。
コルクが収穫できる樫は、スペイン、フランス、モロッコなど地中海沿岸の7カ国に群生しますが、中でも ポルトガル樫は質が高く、世界の半分以上のコルクがこちらで生産されています。
栓として加工できるのは、木目がふぞろいな若木ではなく、樹齢30年を経て均整のとれた木に成長してからで、この最初の収穫から150年ほどの間、9年ごとに樹皮を採取します。木を痛めずに、剥がされた層がまた結合し、再生するようコルクを剥がしていくには熟練の技術が必要です。
こうして厚く切り取られた樹皮は、屋外に6カ月ほど放置し、雨、風、日光にさらして木目を詰め、高温蒸気処理を施して 弾力を高めた後、栓の形に抜き取ります。このあと塩素を使った液体でコルクを消毒しますが、稀に塩素がコルク内の成分と化学反応を起こすことがあります。これが、いわゆるブッショネという現象で、コルクを抜いてワインを注いだ瞬間に、異臭を感じます。
ワイン業界を悩ませてきたブッショネですが、原因が解明されたことで、コルクの消毒手法を見直し、以前は7%といわれたブッショネを、1%以下まで減らしたという情報もあります。その間に、ブッショネリスクゼロのスクリューキャップが市場に出回り、あっという間にシェアーを伸ばしてきました。
とはいえ、自然コルクほどワインの熟成をうながす優れものはないのも事実。これは、コルクの構造に起因します。コルクの内部は、ガスが充満した超微小の細胞が蜂の巣状態をつくっています。この細胞に内包されているガス(空気)が、長い時間をかけて微量に瓶内にとけ込んで行き、角のたった酸味やタンニンを柔らかく変化させ、果実味に複雑なマッシュルームや蜂蜜味を加え、紫色だった赤ワインをルビーからオレンジ色に変えていく効果をもたらします。
一般的に、ワインの酸化(すっぱくなる)は、コルクの隙間から空気が入り込むために起こると誤解されていますが、実際はコルク樫の自然の妙なのです。コルクの弾力性と密通性はほぼ完璧なので、ひどい酸化が起こったとしたら、それはボトリングの際の不手際のせい。逆にいうと、プラスティックなどでつくった人工コルクの方が、弾力性が乏しいため、空気の侵入が大きく、酸化が早く進みます。
ワインを瓶詰めにする際に、酸化防止と防腐剤として亜硫酸ガス(SO2)を瓶内に注入しますが、この量がワインの質とスタイルの決め手。20年後にピークを迎えるはずのワインならば、最高級の自然コルクで一番長いもの(つまり瓶内の空気比率が低い)を打って、20年間で酸化をゆっくり促す量のSO2を入れます。逆に、出荷後すぐに飲むタイプの若いワイン(まさにニュージーランドのソービニョンブランなど)であれば、ガスの量を減らしてスクリューキャップで蓋をしておけば、空気も入らず、最低限の酸化防止剤だけでワインの鮮度を保てるという訳です。
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