第27回 ナチュラルなブドウ、
自然派のワインは存在するか(1)

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

最大手ガロのブドウ畑にて管理者と

最大手ガロのブドウ畑にて管理者と
Photo © Yuki Saito

 そもそも誰が言い出したのか「ナチュラルワイン」という定義不能な絵に描いた餅があります。確かにブドウを放っておけば、腐って発酵し、ワインになります。これをもってワインを「自然の産物」というは、笑止千万。人工的な手当をしなければ、すぐに雑菌が入って、腐ってしまいますし、生産過程のどこかで人工的な手を加えなければ、品質の保証はありません。

 ましてワインがナチュラルなものであれば、自然に生えているブドウの木からワインを作るはずですが、勿論そんなはずはなく、畑の中で一番質の良いブドウの木から苗をとり、人間が温室でクローンを作って畑に植え直してきました。別の方法として、畑の良い木だけを残して、質の悪い、病気勝ちな木は淘汰し、いわゆる昔の「優生保護法」的な発想でブドウをセレクトしてきたのです。ここから既に人間の介入があります。

 こうして「量産しやすい」「色の美しい」「香りの良い」「味が凝縮しやすい」など個々に特徴のあるクローンの数々を作り、作り手が自分のワインに適したクローンを選びます。ちなみに、ブドウの木の根っこは、別のブドウの木から作った台木を使います。何故かというと、クローンとして作られるヨーロッパ品種(ピノ、シャルドネなど)は、土中の害虫に弱く、根を食い荒らされて死に至る病気があるので、こういう害虫に強いアメリカ産のブドウの木を、根っことして使い(これが台木)、その上にクローン品種の苗を接木します。ヨーロッパを始め、世界のブドウの木の根っこは「アメリカ産」ということになります。勿論、台木と接木は一旦くっついてしまえば、完璧に一体化するので問題はありません。この場合、木やブドウの性格はクローンが支配し、根に使われるアメリカ品種はブドウに影響しません。

畑のペストを狩るハヤブサ(鷹)

畑のペストを狩るハヤブサ(鷹)
Photo © Yuki Saito

 この台木にも様々な種類があり、「害虫に強い」「寒さに強い」「ブドウの成熟が早熟(晩成)」「干ばつに強い」「アルカリ地質に強い」などブドウ園の地質や気候(テロワール)に沿ったものを選べます。更には、選んだ台木と接木が自分の作りたい質(少数精鋭、最高品質 或は 大量生産型)に育つように、ブドウの木の究極的な大きさや形をあらかじめ決めて、それ以外の形に育たないように、ツタが伸びないように切りとり、葉や枝もそぐわないものは切り落とし、ブドウも必要な数だけを残して、取り除きます。まさに昔の中国の「纏足」を思い起こす不自然さです。数え上げればきりがない様々な手間をかけてブドウを育て、収穫に至る訳です。

 ここまでは、ニューワールド(米豪など)は勿論、本家フランスを始め、ヨーロッパでは常識的な風景です。特にフランスでは、「ワインはブドウ畑で作る」と言い切るほど、ワインの質はブドウの質で決まると考えるため、畑でのブドウの管理は徹底しています。それに比べると、ニューワールドでは「ワインはお蔵で作る」という気構えが在り、進んだテクノロジーを背景に様々な化粧や、美容整形が施されることになります。(次回に続く)

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斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

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