第31回 ディスカバー、リバモアバレー(Discover Livermore Valley)

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

主席醸造担当カール・ウェンテ

主席醸造担当カール・ウェンテ
Photo © Yuki Saito

 ベイエリア至近距離で、歴史深いワイン地域といえば、リバモアバレー(以下LVと省略)だ。その中心地リバモアまで、サンフランシスコから車でほんの40分。もう一つの主要都市、プレゼントン(Pleasanton)までなら、便利なことに通勤電車直行でやはり40分で行ける近さだ。

 にもかかわらず、観光客や業界人の足はもっぱら北のナパ、ソノマに集中し、なかなかリバモアに向いてくれない。というのが、LVワイン生産者協会の悩みである。その理由は、馴染みのある有名銘柄が少ないこと、地理的にSF内陸部のベッドタウンとしてのイメージが強いことであろうか。現地最大手のウェンテ(Wente Vineyards)は、国内生産量でトップ50位内にランクされるワイナリーだが、輸出市場に注力してきたこともあり、国内での知名度はモンダヴィ、ジャクソンファミリーなどに比べると、あまり高いとはいいがたい。

 既にLVには50の大小ワイナリーが存在し、美しいゴルフ場や、質のよいレストラン、割安なホテルも完備されている。そういった実情を知ってもらおうと、LVワイン生産者協会がワインライター向けに、3日間の視察取材を企画、筆者も招聘された。

 準備された宿舎はプレゼントンの目抜き通りにある、格調高いローズホテル。小さなメインストリートには、可愛らしいブティックやレストランが並び、これなら日帰りせずに、一泊しても良いという気持ちにさせてくれる。これまではリバモア市内のホテルチェーン(マリオット系列など)に泊まり、ウェンテ所有の美しいゴルフ場でプレイした後は、敷地内にある質のよいレストランで夕食というのが、筆者の定番であった。正に、ウェンテ一色であった訳だ。今回案内されたプレゼントンルートや、リバモア市内のナイトスポット(ワインバーなど)も、割高のナパなどに比べるとリーズナブルでなかなか魅力的であった。

 取材は、ウェンテ家五代目当主、キャロリン氏を中心に、大小のワイナリーオーナー達が一堂に会す夕食会で始まった。同氏は、米国ワイナリーを統括するWine Instituteの現会長(持ち回り制)であり、主席醸造担当をつとめる若い甥のカールは、地元ワインメーカーのリーダー的な存在でもある。ウェンテ家は代々、LV 地域の自然保護に私財を投入し、また新興ワイナリーの立ち上げや技術指導に深く関わってきた。それはLV振興が現地プレーヤーすべてのメリットになることを物語っている。

 興味深かったのは、翌日行われたLVのテロワールについてのレクチャーで、一般に誤解されている「LV=暑い内陸部=大量生産ワイン」という図式を、気象資料と地域図を基に差別化したことであろうか。実際きちんと検証すれば、LVはより内陸部のセントラルバレーとは一線を画す、海からの風や霧が届く地域であり、気候的にはナパバレーに近いといえる。そのあとに訪れたブドウ畑の高台に立ち、LVを一望して納得した。

 LVは主に、カベルネ、シャルドネ、プテットシラーやソービニョンブランといった人気品種を生産。価格的には、ナパ、ソノマに比べると割安だが、なかにはスティーヴケント のリーネッジ(linagewine)という200ドル相当の高級ワインもある。LV生産者協会のサイトに詳細があり、一度気軽に立ち寄ってみることをお勧めする。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 2024年10月4日

    大谷翔平選手の挑戦
    メジャーリーグ、野球ボール 8月23日、ロサンゼルスのドジャース球場は熱狂に包まれた。5万人...
  2. カナダのノバスコシア州に位置する「ジョギンズの化石崖群」には、約3 億5,000 万年前...
  3. 世界のゼロ・ウェイスト 私たち人類が一つしかないこの地球で安定して暮らし続けていくた...
  4. 2024年8月12日

    異文化同居
    Pepper ニューヨーク同様に、ここロサンゼルスも移民が人口の高い割合を占めているだろうと...
  5. 2024年6月14日、ニナが通うUCの卒業式が開催された。ニナは高校の頃の友人数名との旅行...
  6. ラブラドール半島のベルアイル海峡沿岸に位置するレッドベイには、16世紀に繁栄したバスク人による捕鯨...
  7. フェムケアの最新事情 Femcare(フェムケア)とは「Feminine」と「Car...
  8. 日本では、何においても横並びが良しとされる。小学校への進学時の年齢は決まっているし、学校を...
ページ上部へ戻る