トーランス クラフトビール最前線 ④
Red Car Brewery & Restaurant
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2015年11月21日
- 2015年12月5号掲載
「トヨタ、ホンダ、日産の米国拠点。日系駐在員の大きなコミュニティーがあり、日本食レストランのメッカ」。ロサンゼルス近郊の街トーランス(Torrance)は、在米日本人の間ではそんなイメージで知られてきた。しかし最近のトーランスは、「クラフトビールの流行発信地」という、ずいぶん違った顔をもつ。南カリフォルニアはもとより全米・海外からもビール好きが訪れる、トーランスのマイクロ・ブリューワリーを、数回にわたって紹介する。
トーランスが南カリフォルニアのクラフトビールのメッカと呼ばれ出したのは、わりと最近のことだが、「新参者」ばかり、というわけではない。先駆者がいる。「レッド・カー・ブリューワリー&レストラン」(Red Car Brewery & Restaurant)だ。
トーランスの「オールド・ダウンタウン」、ホンダの本社が目の前というロケーションだ。そう書けば、「あのレトロな雰囲気の店か」と思い当たる読者もいるのではないだろうか。
正午過ぎに店をたずねてみると・・・、「お昼どき=飲めない」はず(?)のオフィスワーカーでいっぱいだ。でも、満員の店内とパティオをよく見回せば、ビールを飲んでいる人ばかりではないのに気づく。ここは、いわゆるレストラン。ピザやサラダが人気のランチスポットでもある。
「トーランスにいくつもあるブリューワリーの中で、食事を出せるライセンスがあるのはうちだけなんですよ」
オーナーのボブ&ローリー・ブラント夫妻は、混雑の秘密をそう明かす。
トーランスでビール醸造に取り組んでいた二人が、レッド・カーをオープンしたのは約15年前。当時はまだ規制が厳しく、食事を出すレストランかパブでなければクラフトビールをつくって売ることは許されなかった。
トーランスは今や、半径0.5マイルにブリューワリーがひしめく。ブラント夫妻が冗談めかして「Beer-muda Triangle」と呼ぶぐらいだが、それは「規制緩和」のおかげだ。
レッド・カーは、そうなる以前の「クラフトビール第一世代」にしかわからない苦労を体験した。レストランのライセンスを取得し、フードメニューをそろえてビールもつくる。世間はまだ「クラフトビールって何?」という雰囲気で、二重三重の挑戦だったという。
1927年建築のレンガづくりの古い建物を修繕。20世紀前半に南カリフォルニアの農村地帯や小さな街を走っていた赤い電車「パシフィック・エレクトリック・レッド・カー」にインスピレーションを受けて、内装にその面影を残し、ビールにも鉄道がらみの名前をつけた。
「クラフトビールがコミュニティーづくりのカギになる」という信念のもと、オールド・ダウンタウンの再開発の中心役も担った。こうした貢献が認められ、夫妻は昨年、トーランス商工会議所から「Citizen of the Year」に選ばれた。
行列ができる店になった今も、夫妻は店内を歩き回って客に声をかける。「スモールビジネスのあたたかさが街をつくる」と、ボブさん。ビールづくりが大好きで仕方がない、それがどうにも隠せない、という感じだ。
バーリー、モルト、ホップ、イーストだけでつくる、正攻法のクラフトビール。最近流行りのコーヒー・ポーターも、コーヒーは一切使わずにコーヒーのような味を出しているという。
Red Car Brewery & Restaurant
1266 Sartori Avenue, Torrance, CA
310-782-0222
redcarbrewery.com
営業時間は、月〜木11:30am〜9:30pm、
金11:30am〜11:30pm、土12〜11pm、
日12〜8:30pm
定番のビール「Red Car Ales」は、鉄道車両の修理工たちが仕事を終えて疲れと喉の渇きを癒すイメージでつくられた。
トーランスの地名を示唆する「South Bay IPA」も人気がある。「Motorman Reserve」は、運転士に捧げたビール。 「South Loop Porter」は、ローストしたチョコレートモルトのフレーバーが特徴的。
食事のメニューは、8〜12ドル前後。ピザやバーガーにも鉄道がらみの名前がついている。ビーチタウンらしく、シーフードのメニューも多い。今年大流行りの「Ahi Pole」(アヒ・ポキ)や、自前のビールを使って揚げたシュリンプのタコスなど。
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