ブルックリン発
GORILLA COFFE
東京・渋谷、1月にオープン

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

「新アメリカン・ブランド」日本へ続々進出~第5弾
アメリカが、日本で再びブームのようだ。特に「食」の世界で、ローカル色の濃い新種のブランドが続々と進出している。ハンバーガー、ドーナツ、ピザなどが新しいスタイルのアメリカン・ブランドとして日本に上陸していく様を、数回にわたって紹介する。

こだわりの水出しアイスコーヒー

こだわりの水出しアイスコーヒー
Photo © Mirei Sato

 ニューヨークシティーといえばマンハッタン、という時代は、とっくに終わった。いまや、ブルックリンが、流行の発信地、ニューヨークの顔だ。

 ひと昔前までのブルックリンは、「ベッドタウン」的な存在で語られることが多かった。職場はマンハッタンにあるけれど、家賃が高くてとても住めない。そんなワーキングクラスの街だったからだ。アメリカに来たばかりの移民が多く、ユダヤ系や黒人の古いコミュニティーもあり、カラフルな独自の文化をつむいできた街でもある。

 しかし、ここ10年ほどで、ブルックリンは大きく変わった。ニューヨークシティーの増え続ける人口を吸収する形で、ブルックリンの「マンハッタン化」が進んだ。再 開発された場所にアートギャラリーやグルメなレストラン、ハイエンドなカフェが増え、「ヒップスター」たちが闊歩する。もちろん家賃も急上昇。

 2011年には、NBAプロバスケットボールのチーム「ニュージャージー・ネッツ」が「ブルックリン・ネッツ」に改名し、移転してきた。共同オーナーはJay-Zだ。「エスタブリッシュメント」的であるマンハッタンに相対して、ブルックリンのイメージは、若くてエネルギッシュ、かつクリエイティブ。国際的な知名度もぐんと上がり、海外からの観光客がマンハッタンを避けてブルックリンを訪れるようになった。

 ニューヨーク発でもマンハッタン発でもなく、「ブルックリン発」こそがトレンディー。そんな風潮が、日本へも流れ始めている。

日本進出を記念してできた「渋谷ブレンド」 Photo © Mirei Sato

日本進出を記念してできた「渋谷ブレンド」
Photo © Mirei Sato

 渋谷と原宿を結ぶ、明治通り。宮下公園の交差点から、山手線の高架下をくぐって渋谷区役所のほうへ坂を上がり出してすぐのところに、「ゴリラ・コーヒー」はある。角地にまるく飛び出した全面ガラス張りの店。赤と黒のゴリラの顔のイメージ。そして、黒地に白抜きで「COFFEE」のロゴ。「ブルックリン発」を掲げて、1月中旬にオープンした。

 本店は、ブルックリンのパークスロープ地区、プロスペクトパークから近い場所に2002年にオープンした。当時は、サンフランシスコやポートランド、シアトルといった、コーヒーにうるさい街から「第三の波」(Third Wave Coffee)が起こり始めていた。スターバックスやありきたりの「ラテ」に物足りなさを感じるアメリカ人が、より本格的なコーヒーを求め出し、それに応えるこだわりのコーヒーショップが全米の都市部に誕生。

 ゴリラもそのひとつで、オーナーが産地に出向いて直接買いつけた豆を、ブルックリンでロースト。地元のクリエイターや住人たちに愛されて、「ニューヨークで飲める美味しいコーヒー」のベスト5に選ばれる店になった。

 ここ数年、夏の定番ドリンクとしてアメリカの一般消費者に根づいたアイスコーヒーの分野でも、ゴリラはいち早く「Cold Brew」(水出し)を提供。パッケージ化して高級グローサリーの「ホールフーズ」や、高級デリの「ディーン&デルーカ」などにも卸している。そのため、ブルックリンに1店舗しかない「超ローカルブランド」ながら、全米の消費者に知られるようになった。

Photo © Mirei Sato

Photo © Mirei Sato

 東京・渋谷は、ゴリラの海外1号店だ。日本にもコーヒーの「第三の波」が到来し、若者の間でカフェの人気が再燃中。そんな中でオープンしただけあって、朝から夜までににぎわっている。

 店舗関係者は、「ゴリラという名前やロゴにインパクトがあって、一度見ただけですぐに覚えてもらえる。いかにもアメリカという感じの店ながら、入りやすい雰囲気なのも喜ばれている」と話す。

 店内のインテリアは、赤と黒を基調に、ブルックリンらしい、ちょっとガッツのきいた洗練さで統一されている。天井を走るむき出しの配管なども、ブルックリンのインダストリアルなイメージを強調している。

 おもしろいのは、テーブルやカウンター席のすべてに電源プラグがついていること。それも赤と黒、というこだわりだ。ちょっと長めの「スマホ休憩」やビジネスミーティング、ノマドワーカーの仕事場としてもどうぞ、という店側の歓迎のサインが見てとれる。

 ブルックリンの本店はコーヒー専門で、食べ物は仕入れのドーナツがあるぐらい。しかし渋谷店では、フードメニューが充実している。東京には、こだわりのカフェはたくさんある。「ゴリラらしさ」を出して他店と差別化を図るため、カフェとしては異例の多さだが、常時約35種類のメニューを用意しているという。

 アメリカンフードならではのボリュームがあって、それでいてコーヒーの味を殺さない。そんな味を考えた。目玉は「ゴリラドッグ」。パンに粗挽きソーセージをはさみ、自家製トマトソースをかけ、フライドオニオン、ザワークラウト、ペッパーをのせた。ジューシーでクランチーな歯ごたえ。店名を冠しただけあって注文する客が多く、「ゴリラ名物」になりつつあるという。

東京限定「ゴリラドッグ」 Photo © Mirei Sato

東京限定「ゴリラドッグ」
Photo © Mirei Sato

 アメリカでも日本でも流行っている「エッグスラット」もある。たいていの店では、卵とマッシュドポテトのみのさっぱり系朝食メニューだが、ゴリラ版は違う。見た目はコンパクトながら、胃袋の満足感はかなりのもの。ベーコンを加えているからだ。半熟卵をスプーンでつぶしてかき混ぜ、カリカリのパンにつけて食べる。

ベーコンが隠し味の「エッグスラット」 Photo © Mirei Sato

ベーコンが隠し味の「エッグスラット」
Photo © Mirei Sato

色鮮やかなブラックベリー入りコーヒーケーキ。日本ではなかなか食べられない味 Photo © Mirei Sato

色鮮やかなブラックベリー入りコーヒーケーキ。日本ではなかなか食べられない味
Photo © Mirei Sato

ボリュームたっぷりのバナナチーズケーキ Photo © Mirei Sato

ボリュームたっぷりのバナナチーズケーキ
Photo © Mirei Sato

 人気のコーヒーは、アメリカでもこの夏話題になった「プアオーバー」(pour over)。オーナーが日本進出に合わせてつくった「渋谷ブレンド」もある。カルダモンとシトラスのフレーバー。ハチミツのような甘さも感じさせるブレンドだ。

 東京限定のゴリラ・コーヒーのTシャツや、ドリップパック、マグカップなども売っている。

 本シリーズ「日本へ続々進出 アメリカン・ブランド」は、いったん終了します。日本へ進出済み、もしくは進出予定の店はまだたくさんあります。あのコーヒーチェーンが? あのグルメバーガーの店が? 近々、まとめて再開する予定です。お楽しみに!

TOKYO

GORILLA COFFEE
東京都渋谷区神南1-20-17-2F
03-5784-2747
www.gorillacoffee.jp

 コーヒー(300円〜)は、毎日複数種類を用意。プアオーバー、水出しアイスコーヒー、レッドアイなど。
 食べ物(450円〜)は、ゴリラドッグ、エッグスラット、ステーキサンドなど。スイーツ(350円〜)は、バナナチーズケーキ、コーヒーケーキ、マフィンなど各種。

店内で売っている「ゴリラグッズ」 Photo © Mirei Sato

店内で売っている「ゴリラグッズ」
Photo © Mirei Sato


東京都渋谷区神南1-20-17-2F

Brooklyn

GORILLA COFFEE
472 Bergen Street, Brooklyn, NY
www.gorillacoffee.com

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佐藤美玲 (Mirei Sato)

佐藤美玲 (Mirei Sato)

ライタープロフィール

東京生まれ。子供の時に見たTVドラマ「Roots」に感化され、アメリカの黒人問題に対する興味を深める。日本女子大英文学科アメリカ研究卒業。朝日新聞記者を経て、1999年、大学院留学のため渡米。UCLAアメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UMass-Amherst、UC-Berkeleyのアメリカ黒人研究学部・博士課程に在籍。黒人史と文化、メディアと人種の問題を研究。2007年からU.S. FrontLine誌編集記者。大統領選を含め、アメリカを深く広く取材する。

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