[敬老・売却問題] 反対派集会に500人、経営陣の辞任要求、政治的駆け引きへ

文&写真/佐藤美玲(Text and photo by Mirei Sato)

 「敬老を救おう!」 (“Save Keiro!”) 「闘い続けよう! 」(“Keep on fighting!”)
 11月23日、ロサンゼルス・リトル東京のアラタニ日米劇場に、威勢のいいシュプレヒコールが飛び交った。
 日系人高齢者向け老人ホームなどを運営する非営利団体「敬老シニアヘルスケア」(通称Keiro)が、全4施設を営利企業のパシフィカ社に売却しようとしている問題で、反対運動を展開する「敬老を守る会」(Save Keiro)が開いたタウンホール集会だ。
 問題に関心をもつ日系アメリカ人や在米日本人ら、約500人が会場を埋めた。

 集会の冒頭、守る会代表のチャールズ・井川氏が、これまでに売却撤回を求める署名が1万2000人分集まったと発表。「自発的に始まった草の根の運動で、ボランティアに支えられ、2カ月ちょっとでこれだけの署名が集まったことに感謝したい」と述べた。

ロサンゼルス・リトル東京のアラタニ日米劇場で開かれた反対派のタウンホール集会 Photo © Mirei Sato

ロサンゼルス・リトル東京のアラタニ日米劇場で開かれた反対派のタウンホール集会
Photo © Mirei Sato

「合法かどうかではなく、正しいことなのかどうか」

 タウンホールは、反対運動に賛同する政治家たちの応援演説を中心に進んだ。

 まず、ジュディー・チュー連邦下院議員(民主)が壇上に上がった。チュー議員は、アジア太平洋系アメリカ人議員連盟(Congressional Asian Pacific American Caucus)のリーダーとして、自身を含む16人の連邦下院議員の署名をとりまとめ、11月初旬、カマラ・ハリス・カリフォルニア州司法長官にあてて「敬老の売却を延期し、公聴会を開くよう」要求する陳情書を送っている。

 演説でチュー議員は、今年初めに自身の父親を亡くしたことに触れた。
「父は徐々に弱っていったが、クオリティーケア(質の高い介護)を受けられたおかげで、安らかな最後を迎えることができた。日系コミュニティーにとって『敬老』は、クオリティーケアの中心的な担い手だった。ロサンゼルスだけでなくカリフォルニア州全域から、引退後を敬老で過ごそうとやってきた。長い人生を歩み、すべてを捨ててここへ移ってきた人たち、戦時中の強制収容体験という非正義を受けた人たちも、なかに含まれている」

 「(現在敬老に入居している)600人の高齢者が最高のケアを受けられるかどうかは、コミュニティー全体の関心事だ。にもかかわらず、公聴会が開かれないまま、営利団体に売却されると聞いて、非常に驚いた」

 チュー議員らが提出した陳情書に対して、ハリス司法長官は11月初旬に書簡を送り、「売却手続きは合法で、撤回しない。公聴会も開かない」と返答している。
 しかし、チュー議員は、売却が合法かどうかよりも、「正しいことなのかどうか、司法長官に問いたい」と述べ、会場の拍手を浴びた。

 続いて壇上に上がったマキシーン・ウォーターズ連邦下院議員(民主)は、司法長官が公聴会を開かなかったことについて「非常に不快」とし、「売却は延期すべきだ」と話した。

 また、敬老が、医療保険制度改革(通称オバマケア)を引き合いに出して売却を決断したことに「怒りをおぼえる」と述べ、「彼らはビジネスとして、損益を出す前に先手を打って売却しようと言っている。それは間違いだ」と批判。
 スポーツの試合やヒット曲などで有名なフレーズ、「It ain’t over ‘til it’s over」を引用して、「過ちを正すのに遅すぎることはない」と締めくくり、喝采を浴びた。

タウンホール集会の会場では、売却反対への署名や募金を募る活動が行われた Photo © Mirei Sato

タウンホール集会の会場では、売却反対への署名や募金を募る活動が行われた
Photo © Mirei Sato

政治的プレッシャー、功を奏するか

 集会の最後に、守る会は、3つの要請事項を発表した。

 ①敬老とパシフィカに対し、ただちに自主的に売却契約を破棄すること。
 ②司法省に対し、売却の審査を再開し、公聴会を開くこと。
 ③敬老シニアヘルスケアのショーン・ミヤケCEOと、理事会のメンバー全員は、ただちに辞任すること。

 2時間以上続いたタウンホール集会は、終始、高揚したムードに包まれた。

 しかし、守る会が目標としている「売却阻止」を達成するのは難しい状況であることに変わりはない。
 司法省はすでに「売却は合法で覆せない」と回答しており、敬老側も「説明責任は果たした」として反対派の主張を聞き入れる意思はない。このまま進めば、エスクローは早ければ来年1月末に終了、パシフィカ社との間での売買が成立する。
 反対派にとっては、残された少ない時間の中で、政治的なプレッシャーをどこまでかけられるか、が勝負になる。

 チュー議員は、タウンホールでの演説後、本誌を含めた報道陣の取材に対して、「これほど多くの人たちが懸念を抱いていることがわかって、非常に心を打たれた」と話した。
 「敬老が司法省に提出した書類に多くの欠陥があるのは明白なのに、司法長官がなぜもっと注意深く調べなかったのか、信じがたい」と述べ、司法長官に、もう一度、請願書を提出するつもりだという。
 ハワイなどほかの州の日系議員らにも支援を呼びかける。「より多くの人が声をあげれば、全米の賛同を得られるのではないか」と話した。

 タウンホール集会の翌日、11月24日には、ウォーターズ議員の力添えで、司法省の担当者と守る会のメンバーの面談が実現した。
 面談は、ロサンゼルス・ダウンタウンにある司法省のオフィスで行われた。司法省側からは、ハリス司法長官の代理として、タニア・イバネス司法長官補佐を含む4人が出席。守る会からは、中心的メンバー8人が出席し、それぞれに売却に反対する理由を説明したうえで、売却撤回と公聴会開催を訴えた。
 ウォーターズ議員も同席し、面談は約2時間半続いた。

 日系コミュニティーから噴出する反対意見を、司法省はどう受け止めるのか。反対派の運動は、敬老の経営陣やパシフィカ社にどこまでプレッシャーをかけられるのか・・・。
 政治的な攻防は、12月に持ち越された。

 フロントラインでは近日中に、敬老シニアヘルスケアのショーン・ミヤケCEOの単独インタビューを掲載する予定です。

敬老・売却問題に関するフロントラインの過去の記事はこちら:

⚫︎2015年11月23日「経営陣と反対派、相違広がる、今夜タウンホール集会、連邦議員も出席」
⚫︎2015年11月13日「反対派が11月23日、リトル東京でタウンホール集会を開催」
⚫︎2015年11月10日「新局面! 司法長官『売却撤回せず』、反対派『断固阻止』で11月下旬タウンホール開催へ」
⚫︎2015年11月6日「カリフォルニア選出連邦下院議員16人がハリス州司法長官に陳情書を提出」
⚫︎2015年11月1日「敬老を売るな! 5000人以上の署名集まる」
⚫︎2015年10月26日「反対署名集め、ロサンゼルス日系コミュニティーが運動開始」

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

佐藤美玲 (Mirei Sato)

佐藤美玲 (Mirei Sato)

ライタープロフィール

東京生まれ。子供の時に見たTVドラマ「Roots」に感化され、アメリカの黒人問題に対する興味を深める。日本女子大英文学科アメリカ研究卒業。朝日新聞記者を経て、1999年、大学院留学のため渡米。UCLAアメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UMass-Amherst、UC-Berkeleyのアメリカ黒人研究学部・博士課程に在籍。黒人史と文化、メディアと人種の問題を研究。2007年からU.S. FrontLine誌編集記者。大統領選を含め、アメリカを深く広く取材する。

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 九州より広いウッド・バッファロー国立公園には、森と湿地がどこまでも続いている ©Parc nati...
  2. 2022年12月9日

    住みたい国
    熊本県八代市の「くまモンポート八代」で 8月の終わりから9月中頃にかけて、私とニナは日本に飛...
  3. 2022年12月7日

    日常の些事
    冬の落ち葉 年齢を重ねると、だんだんと感動が薄くなるとはよくいわれる。ほとんどのことは過去に...
  4. 2022年12月6日

    美酒と器
    酒器の種類 酒器にはさまざまな素材、形のものが存在する。適切な器を選ばないとお酒本来...
  5. 契約上のトラブル 広範囲にわたる法律問題を扱う弊社にはさまざまなお問い合わせがありま...
  6. この号が出る頃、私とニナは日本での3週間の滞在を終えてアメリカに戻っているはずだ。ニナにと...
  7. 2022年10月7日

    森英恵の反骨精神
    裏庭の蝶 ファッションが好きな女性はたくさんいるだろう。私もその一人だ。休日の気晴らしは以前...
  8. およそ2000人の作業員により、6年間で建設されたリドー運河 カナダの首都オタワと、5大湖の...
ページ上部へ戻る