[敬老・売却問題] 反対派集会に500人、経営陣の辞任要求、政治的駆け引きへ
文&写真/佐藤美玲(Text and photo by Mirei Sato)
- 2015年11月26日
- 2015年12月20日号掲載
「敬老を救おう!」 (“Save Keiro!”) 「闘い続けよう! 」(“Keep on fighting!”)
11月23日、ロサンゼルス・リトル東京のアラタニ日米劇場に、威勢のいいシュプレヒコールが飛び交った。
日系人高齢者向け老人ホームなどを運営する非営利団体「敬老シニアヘルスケア」(通称Keiro)が、全4施設を営利企業のパシフィカ社に売却しようとしている問題で、反対運動を展開する「敬老を守る会」(Save Keiro)が開いたタウンホール集会だ。
問題に関心をもつ日系アメリカ人や在米日本人ら、約500人が会場を埋めた。
集会の冒頭、守る会代表のチャールズ・井川氏が、これまでに売却撤回を求める署名が1万2000人分集まったと発表。「自発的に始まった草の根の運動で、ボランティアに支えられ、2カ月ちょっとでこれだけの署名が集まったことに感謝したい」と述べた。
「合法かどうかではなく、正しいことなのかどうか」
タウンホールは、反対運動に賛同する政治家たちの応援演説を中心に進んだ。
まず、ジュディー・チュー連邦下院議員(民主)が壇上に上がった。チュー議員は、アジア太平洋系アメリカ人議員連盟(Congressional Asian Pacific American Caucus)のリーダーとして、自身を含む16人の連邦下院議員の署名をとりまとめ、11月初旬、カマラ・ハリス・カリフォルニア州司法長官にあてて「敬老の売却を延期し、公聴会を開くよう」要求する陳情書を送っている。
演説でチュー議員は、今年初めに自身の父親を亡くしたことに触れた。
「父は徐々に弱っていったが、クオリティーケア(質の高い介護)を受けられたおかげで、安らかな最後を迎えることができた。日系コミュニティーにとって『敬老』は、クオリティーケアの中心的な担い手だった。ロサンゼルスだけでなくカリフォルニア州全域から、引退後を敬老で過ごそうとやってきた。長い人生を歩み、すべてを捨ててここへ移ってきた人たち、戦時中の強制収容体験という非正義を受けた人たちも、なかに含まれている」
「(現在敬老に入居している)600人の高齢者が最高のケアを受けられるかどうかは、コミュニティー全体の関心事だ。にもかかわらず、公聴会が開かれないまま、営利団体に売却されると聞いて、非常に驚いた」
チュー議員らが提出した陳情書に対して、ハリス司法長官は11月初旬に書簡を送り、「売却手続きは合法で、撤回しない。公聴会も開かない」と返答している。
しかし、チュー議員は、売却が合法かどうかよりも、「正しいことなのかどうか、司法長官に問いたい」と述べ、会場の拍手を浴びた。
続いて壇上に上がったマキシーン・ウォーターズ連邦下院議員(民主)は、司法長官が公聴会を開かなかったことについて「非常に不快」とし、「売却は延期すべきだ」と話した。
また、敬老が、医療保険制度改革(通称オバマケア)を引き合いに出して売却を決断したことに「怒りをおぼえる」と述べ、「彼らはビジネスとして、損益を出す前に先手を打って売却しようと言っている。それは間違いだ」と批判。
スポーツの試合やヒット曲などで有名なフレーズ、「It ain’t over ‘til it’s over」を引用して、「過ちを正すのに遅すぎることはない」と締めくくり、喝采を浴びた。
政治的プレッシャー、功を奏するか
集会の最後に、守る会は、3つの要請事項を発表した。
①敬老とパシフィカに対し、ただちに自主的に売却契約を破棄すること。
②司法省に対し、売却の審査を再開し、公聴会を開くこと。
③敬老シニアヘルスケアのショーン・ミヤケCEOと、理事会のメンバー全員は、ただちに辞任すること。
2時間以上続いたタウンホール集会は、終始、高揚したムードに包まれた。
しかし、守る会が目標としている「売却阻止」を達成するのは難しい状況であることに変わりはない。
司法省はすでに「売却は合法で覆せない」と回答しており、敬老側も「説明責任は果たした」として反対派の主張を聞き入れる意思はない。このまま進めば、エスクローは早ければ来年1月末に終了、パシフィカ社との間での売買が成立する。
反対派にとっては、残された少ない時間の中で、政治的なプレッシャーをどこまでかけられるか、が勝負になる。
チュー議員は、タウンホールでの演説後、本誌を含めた報道陣の取材に対して、「これほど多くの人たちが懸念を抱いていることがわかって、非常に心を打たれた」と話した。
「敬老が司法省に提出した書類に多くの欠陥があるのは明白なのに、司法長官がなぜもっと注意深く調べなかったのか、信じがたい」と述べ、司法長官に、もう一度、請願書を提出するつもりだという。
ハワイなどほかの州の日系議員らにも支援を呼びかける。「より多くの人が声をあげれば、全米の賛同を得られるのではないか」と話した。
タウンホール集会の翌日、11月24日には、ウォーターズ議員の力添えで、司法省の担当者と守る会のメンバーの面談が実現した。
面談は、ロサンゼルス・ダウンタウンにある司法省のオフィスで行われた。司法省側からは、ハリス司法長官の代理として、タニア・イバネス司法長官補佐を含む4人が出席。守る会からは、中心的メンバー8人が出席し、それぞれに売却に反対する理由を説明したうえで、売却撤回と公聴会開催を訴えた。
ウォーターズ議員も同席し、面談は約2時間半続いた。
日系コミュニティーから噴出する反対意見を、司法省はどう受け止めるのか。反対派の運動は、敬老の経営陣やパシフィカ社にどこまでプレッシャーをかけられるのか・・・。
政治的な攻防は、12月に持ち越された。
フロントラインでは近日中に、敬老シニアヘルスケアのショーン・ミヤケCEOの単独インタビューを掲載する予定です。
敬老・売却問題に関するフロントラインの過去の記事はこちら:
⚫︎2015年11月23日「経営陣と反対派、相違広がる、今夜タウンホール集会、連邦議員も出席」
⚫︎2015年11月13日「反対派が11月23日、リトル東京でタウンホール集会を開催」
⚫︎2015年11月10日「新局面! 司法長官『売却撤回せず』、反対派『断固阻止』で11月下旬タウンホール開催へ」
⚫︎2015年11月6日「カリフォルニア選出連邦下院議員16人がハリス州司法長官に陳情書を提出」
⚫︎2015年11月1日「敬老を売るな! 5000人以上の署名集まる」
⚫︎2015年10月26日「反対署名集め、ロサンゼルス日系コミュニティーが運動開始」
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