[新春インタビュー] シルク・ドゥ・ソレイユ「KURIOS」ロサンゼルス公演に出演中
ヨーヨー世界チャンピオン「BLACK」
文/佐藤美玲(Text by Mirei Sato)
- 2016年1月1日
「Cirqueに出演したい」と初めて思ったのはいつ頃でしたか? そのきっかけや理由も教えてください。
シルク出演を夢見始めたのは、2003年の8月でした。「Dralion」というショー(現在は終演)に出演していたジャグラー「Viktor Kee」氏の演技に衝撃を受けたんです。Viktor氏の演技は、技術が凄まじいのはもちろん、音楽との合わせ方や醸し出す雰囲気など、「これがアートだ」と強く思わせる迫力がありました。「これをヨーヨーでやりたい」と思ったんです。しかし当時は、「自分の実力では無理だろうな」と諦めていました。
時は流れ2006年、私は一般企業で会社員として働いていました。しかしそれは、ヨーヨーでは食っていけないことからの仕方ない選択でした。不本意な仕事に時間を費やす毎日に嫌気が差し、「自分は人生を通じ何をなしたいのか?」を考えるようになりました。
そして、「後世に良い影響を残したい」、「自分にできるのは、ヨーヨー業界への貢献ではないか」、「自分以外のチャンピオン達も、社会的評価が伴っているとは言い難い。もし自分がシルクのような舞台に立つことができたら、ヨーヨーという分野そのものへの評価が高まり、後輩選手達の活動環境が改善されるのではないか」。
そう考え、改めて真剣にシルク出演を目指すようになりました。
シルクのショーはただ技術を見せるだけではなく物語性があり、各アーティストにもミュージカルのように役が振られていますよね。本公演「KURIOS」において、BLACKさんの役回りとは?
私は「時の支配者」という役を演じています。KURIOSでは舞台道具の一つに時計があり、開演前から終演までの演出に重要な役目を果たしています。そして、その時間を操っているのが私、という設定です。使用するヨーヨーも、懐中時計を模したデザインになっています。
演技の振り付けにおいても、ヨーヨーを「時」そのものの象徴として扱い、人生という限りある時間を全力で楽しもうとする明るさや、大切にしたい愛おしい瞬間も流れていってしまう切なさ、などを表現しています。
シルクのショーでは、各アーティストは自分の主演目だけでなく他の演目にも脇役として出演したり、協調性が要求されるかと思います。スタッフを含めて、皆さんの人間関係はどのような雰囲気なのでしょうか。世界各国から集まるメンバーとの交流の秘訣のようなものがあれば教えてください。
KURIOSでは、スタッフを含めると約20カ国出身の面々が働いています。飛び交う言語も様々で、最も多いのがロシア語、次いでフランス語と英語が半々、他にはスペイン語も少々、といった様子です。
出身国が違えば、当然生まれ育った背景や性格も大きく異なります。私もKURIOS参加前に最も心配していたのは、「サーカスという独自文化、まして様々な出身国のメンバーに馴染めるか」という点でした。しかしその心配は、全くの杞憂に終わりました。
確かに我々は性格や趣向、専門分野がそれぞれ異なります。しかし、「シルク出演に足る技術を身につけるため、十分な努力を積んできた」という共通点があります。自身が辿ってきた、決して簡単ではない道のり。それと同じだけの努力を相手も積んできたのだということに対し、自然と仲間意識や敬意が芽生えます。そうした敬意を丁寧に伝えることが、言葉や文化の壁を乗り越えた信頼関係を築く秘訣であると思います。
週に8~10回の公演、しかも1都市で2カ月以上という長丁場の公演です。体調管理において気をつけていることはありますか?
1日のショーだけでもかなりの疲労がありますが、ショーは毎日あるので、疲れを翌日に持ち越すことはできません。
身体の面では、日本から自分の枕とマットレスを持ち込んで、良質な睡眠をとれる環境を作っています。睡眠時間は毎日8時間とるよう心がけています。ショーの前には1時間のストレッチ、演技後もストレッチポールを使い身体をほぐします。
食事は会場内にあるスタッフ用の食堂でとります。ブッフェ形式なので、栄養素・量・味、の順番で料理を選びます。たんぱく質を多く摂取したいので、肉類を積極的に食べるようにしていますね。
また、身体だけではなく精神面での健康も重要ですので、ショー以外の時間はできるだけリラックスできるよう心がけています。ノイズキャンセリングのヘッドホンで音楽を聴いたり、演技作りの参考になる動画鑑賞などをして過ごすことが多いです。
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