日本の女性だけで審査を行うSakura Japan Women’s Wine Awardが、1月下旬に東京で開催された。発起人は日本のワイン業界で大きな影響力を持つ田辺由美氏。同氏は長年ワインスクールを全国展開。ソムリエ試験を始めとする試験対策と教科書の著書としても有名で、彼女の講座を受けたソムリエやワインエキスパートは相当数に上る。今回審査員として招待され、米国から参加。その興味深いビジネスモデルを取材してきた。
3回目を迎えた本年は、世界35カ国から3,543のワインがエントリーされ、5日間に渡って審査が行われた。審査は5人一組で、一日の対象ワインが40種程度、審査時間は11時から昼食を挟んで5時までという設定。著者が審査に関ってきたInternational Wine & Spirits Competition(IWSCイギリス)では、80~100本のワインを4時間程度で審査していくのに比べ、かなりゆるめの設定である。これには理由がある。まず、380名の審査員の経歴にばらつきがあること。出席者は日本独自のソムリエ資格を持つグループが主流で、ワインの流通業が圧倒的。海外で必要とされる、Wine & Spirits Education Trustなど高等教育機関の資格を有する国際派もいるが、まだ少数だ。また、ワイン審査の経験者も少ない。
例えば国際的な品評会は、 マスターオブワインやマスターソムリエを始めとする審査のプロ集団が仕切る。この場合、 ワインの評価手法が確立されており、審査員の 評価がズレにくく、また数値に乖離があっても、何故そのような結果になったのかを理解する土壌があり、修正し易い。翻って桜の場合。100点満点のうち、審査員の平均評価が85点になったワインに、63点をつけた審査員に説明を求めた場合、 「このワインは食べ物に合わせづらい」「後味が良くない」という主観的な答えになり易い。本来であれば、「酸味が低く(減点4)、樽臭ばかりが際立つので、バランスが悪い(-15)。故に食事に合わせにくく、余韻に樽の苦みが残る(-4)。よってマイナス23点)」という説明を期待する。
また、日本独特の「遠慮」「謙遜」が、審査に必要な「議論」を避けるという側面を生む。 グループの審査委員長をつとめた友人も、相当な苦労をしたらしい。要は、「グループ内の審査結果がばらばらすぎ」て「まとめようと思っても、何故そういう評価なのか聞きづらい」ということらしい。うがった見方をすれば、「聞いても、明快な答えが得にくく」「追求すると反発するか、他人の点数に合わせることで折り合いをつけようとする」というところか?
とはいえ桜アワードには、業界の女性にチャンスを与えて育てていくという明快な意図がある。多少未経験で勉強不足であっても、チャンスを与えることで刺激を与え、当人の奮起を促すというところか。実際、審査員は若い女性が多く、ばらばらな経験や味覚も、消費者目線と見立てることはできる。桜はまだ出発したばかりで、「権威のある」アワードとは言い難いが、将来を見据えたビジネスモデルはお見事と言う他ない。それは、女性(審査員)の動員数を年々増やし、審査発表をバレンタインデーに設定して広報し、8万人の動員が期待されるFood Expo (Foodex)で受賞ワインを大々的に一般公開するという仕掛けだ。審査に参加した女性達は、Facebookなどで桜アワード体験を宣伝するし、比較的受賞比率の高いワインの作り手は、女性の選んだワインとしての好感度をゲットし、市場でプロモートできる。昨年は、 ドイツで開かれた世界最大のワイン祭り、プロワイン(Prowein)に、田辺氏自らが「桜ワイン」ブースを出展し、日本女性の選んだワインをアピールした。この調子でいくと、同氏が掲げる「日本女性の年間ワイン消費量、一人あたり5リットル」は充分達成可能と見受ける。
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