第42回 お金という友人

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

お金の過食症、拒食症という表現をどこかで見た時、なんてピッタリの表現かと感嘆したことがある。私たちはお金の話は下品だとして、あまり話さない。まるで、この世の中にはお金というものがないかのように振舞う。

ところがある時、英字新聞で米国人の大半が、1日の内考えていることの90%はお金に関してだという記事を読んだ。これは私にはショックだった。大新聞の署名入りの記事は別だが、大体の記事は7割がたしか信用しない。それでも、この記事には少なからず驚いた。驚いたというより、そうだったのかと安心した。超高収入の人を除いて、月末には支払いが出来るだろうかと、心配するのが普通だと思っているから、正直ほっとした。私だけではないと。

大切にしているとものは集まってくるとはよく言われることだ。人を大切にすれば人が周りに集まってくるし、お金を大切にすればお金が集まってくる。人に親しまれる人はやはり沢山の時間を人間関係に費やし、あの人は面倒見が良いと評判になる。その風評は実に正直で付け焼刃では到底出来るものではない。

ある人はお札にはアイロンをあて、きれいに皺をのばして財布に入れると聞き、ああ、この人はお金が溜まる、と思ったものである。私もきれいなお札が手に入ると、それだけ別にする。誰かにお金で支払う必要のある時にきれいなお札を使いたい。ある時こっそりこのお札を出して見ていたら、娘に見つかり、気持ちが悪いよ、と言われた。お札に微笑んでいたらしい。我ながら恥ずかしい。近所の店でお釣りでもらった1ドル札にサウスカロライナのハンコが押されてあった。このお札はそこから沢山の人の手に渡り、遂にカリフォルニアの私の手にたどり着いたのだ。長旅をしたこの1ドル札は特別にしまっている。何人の手に渡ったのだろう。想像するだけでも楽しい。

サウスカロライナから来た1ドル札

サウスカロライナから来た1ドル札

誰もがお金が欲しくて一生懸命働いているのだから、それを沢山持っている人を羨み、憧れ、時には恐れる我々の心理は当然である。それが現実だ。特に、人種の坩堝の米国では手っ取り早い評価は収入の高低だったりする。そういう社会で生活している事を認識し、お金という友人と賢く付き合いたい。ないがしろにせず、ふりまわされたりもしないように。

あらゆる美味しいものを貪欲に食べていると、世界中の美味を腹に収めて大満足ではあるが、外見は醜い。反対に食欲を最初から拒否すると貧相な外見になり、生命力を欠く。過食症と拒食症。この食欲と金欲が酷似している。米国は自由競争の国、物欲を追い求める国だから、お金を得ようと積極的に出かけないのは怠慢だと言われても仕方がない。自分が取らなければハングリーな人に、あるいは欲張りの人に横取りされる。それを悔しいと思うなら自分も狩に行かなければいけない。

面白いことは、もう一生お金の心配がなくなった時の我々の変化である。あんなにシャープだった人が急にボケる。労働意欲も社会への興味もなくなる。気の合う少人数の人とだけ付き合い、好きなことだけをする。いつかはこういう生活をしたいと努力を重ねてきたのだから希望がかなって幸せそうだ。しかし、何かが衰える。

同僚にフィリピン人の女性がいる。会社では休む間もなく働き、時々いなくなる。どこに行っていたの、と聞くと、お国に帰り孤児院を作ってきたと言う。せいぜい5-6人だろうと思い聞くと、なんと23人と言う。という事はそのための家を数軒私費で買ったということだ。次にいなくなった時は、大学を作ってきたと言う。まさか、と言うと、勿論私のお金ではなく寄付を集めたの、と。自分の子供たちは自立しているから私の援助はいらない、だからこれが私がやりたいことなの、と話してくれた。

お金で90%の幸せは買えると言われる。しかし残りの10%はそうではない。その10%は安易には手に入らない。お金で買えない大切なものこそに私たちの魂がゆさぶられる。

お金という1人の友人と上手に付き合いたい。1ドルから稼ぐ。お札の裏の4文字をまじまじと見る。In God We Trust.

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう37年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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