軍に志願するも武器を携帯するのを拒否し、衛生兵として沖縄戦線で負傷者の救助に奔走したアメリカ兵デズモンド・ドスの伝記映画となる「Hacksaw Ridge」は、やんちゃな素行や訴訟問題ばかりが報道されてきたメル・ギブソンの10年ぶりの監督作。久しぶりに会ったメルは、顔色も良く上機嫌で、記者の質問に熱く、そして時にはユーモアを交えながら、表情豊かに答えていた。
劇中登場する日本兵には日本人や日系人を起用した本作。映画の中でデズモンドが負傷した日本兵を助けるシーンもあり、戦争の愚かさを再認識させてくれる。しかし、本作は反戦映画というよりも、彼の以前の作品同様、キリスト教の布教映画に近い要素を見せている。そんなメルに、自身の宗教との関係やデズモンドから学んだことなどを聞いた。
インタビュー冒頭、日本人の起用に触れると「日本人キャストたちはランチになると『Here ya go mate』と声を掛け合っていた。彼らはオーストラリア人なんだよ(撮影は、メルが育ったオーストラリアで行われた)。それがとても興味深く、面白かったね」というエピソードを教えてくれた。
宗教と自身の生活については「オレは熱心じゃないんだ。もっと信仰心が篤いといいと思うけど。だからデズモンドのような強固な信仰心を持つ男の話が好きなんだよ。彼にはとても感銘を受けた。彼のストーリーは宗教についてではなく、イエス・キリストの心に対する純粋な愛の話なんだ。オレはどこまでも不完全で、なんとかそれを自分の中で直そうとしているけどね(笑)」と答えた。
実は出演していた?!
本作でメルは完全に裏方に周り、「出演シーンは一切ない」と思っていたら、まったく気づかないカメオ出演があることを教えてくれた。
「今回の出演陣は本当に素晴らしく、これまででベストな仕事をそれぞれ見せてくれた。オレはとても誇りに思い、後ろで観ているのをとても楽しんだよ。でも、実のところ、オレもちょっとだけ出てるんだ(笑)。手と影の出演をした。裁判のシーンの撮影で、ヒューゴ(・ウェイヴィング。デズモンドの父親役)のスケジュールがどうしても合わなくて、オレがやった。そして、後で合成してヒューゴにしたんだよ」
戦争シーンを見る限り、かなり大がかりな作品のように思えるが、本作はオスカーを受賞した「Braveheart」よりも撮影日数も費用も少なかったそうだ。どうやってやり繰りを成功させたのだろう。
「本作は約60日で撮影した。そんなことができたのは、一重に助監督のお陰だよ。誰もコイツについて前情報を教えてくれなかったけど、まるでコンピューターみたいに頭が切れるヤツで、オレの片腕として手腕を振るってくれた。『次に進まないと』というヤツの言葉にオレが躊躇していると、間髪入れずに『黙れ! すでにオーバータイムになっている』と言ってオレを笑わせて、次の予定に移らせた。ヤツにはものすごい借りができたよ。ウィットに富んだユーモアにもね」
戦争の残忍さと悪質な行い
本作でメルはデズモンドから何を学び、また、何を観客に受け取ってもらいたいと思っているのだろうか。「本当のスーパーヒーローは、スパンデックスのスーツを着ていないってことだよ。デズモンドは我々を奮い立たせるものを見せてくれた。愛は戦争を凌ぐことができるというのを証明した。愛とは何かを見せてくれたんだ。それはとても重大なメッセージだよ。言葉ではうまく説明できないし、まずい方向にいくことだってある。今までそうだったようにね。歴史は繰り返される。本作で、戦争の残忍な行為や悪質な行いをみんなに思い出させることができればと思っている。観客をぞっとさせ、対極にあるものを引き立たせたいと思っている。そうすることで、善を引き出すことができるからね」
暴力や戦争に対する気持ちを描きたいメルのパッションは還暦になってもまだまだ熱い!!
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