自分にしか書けないジャズをアメリカへ
ジャズピアニスト 大江千里さん

Text & Photos by Haruna Saito

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愛犬ピースとともに

2018年6月9日(土)、ニューヨークで活躍中のジャズ・ミュージシャン大江千里さんが、ニューアルバム『Boys & Girls』の発売を記念してロサンゼルスでトークショーを行なった。西海岸での講演は、これが初めてだという。

諦められなかったジャズへの挑戦

1983年にシンガーソングライターとして日本でデビューして以来、自身のヒット曲をはじめ、作詞・作曲家としても多くのアーティストに楽曲を提供してきた大江さん。彼がジャズに挑戦するためニューヨークへ移住したのは11年前、2008年の時だ。

「15歳くらいからずっとジャズが好きで、シンガーソングライターとしてデビューしてからもその気持ちは胸でくすぶっていました。40代半ば頃に飼っていた犬が亡くなり、母も亡くなったんですね。その時に、人生には限りがあるんだと、そしてとても短いのだと思いました。これからの人生、僕は二山も三山も越えていかなければいけない。50歳になった時にどこでどういう生き方をしていても、生き生きしていたいなと思いました。そんな時に、『そうだ、僕はジャズがやりたいんだ』とハッと気づいたんです」と話す大江さん。

NYを幾度か訪れた際に、ジャズの学校に通う学生たちと何度かすれ違っては「かっこいいな」と眺めていた大江さんは、マンハッタンにあるThe New School for Jazz & Contemporary Musicという学校を受験することに決めた。すぐさまジャズの先生に相談してデモテープを作り、紹介文とともに応募して、みごと合格を掴んだ。

「入学してすぐの頃は、今までのキャリアもあるのでいいところを見せなければ、と力が入ってしまい、失敗の連続でした。授業の一環で生徒の前でブルースを演奏した時は、ガチガチになって脱輪。47歳の僕が、18歳の同級生に必死で食らいついて、家に帰っても朝まで練習したりしていました」。気合を入れて18単位みっちり取ったところ、肩が抜けてしまい、3カ月はピアノが弾けない状態に陥ったこともあったという。「そこからは、高い跳び箱を躍起になって跳ぶのではなく、低い跳び箱でも世界一格好良く着地できるように、自分らしく行こうと決めたんですね。それからはとにかく人の音を聞く。喋らず、演奏せず、人が弾いているものを聞いて楽しむということを学びました」。

「千里ジャズ」を広めるべく、個人レーベルを立ち上げ

4年半後、卒業間際となった大江さんは、日本には戻らず、今まで習ってきたことを生かして自分にしか書けないような「千里ジャズ」を、アメリカでやっていくことを決心したという。みずから営業、経理、広報、社長などをこなし、2012年に個人レーベル「PND Records」を立ち上げた。

「自分にしかできないことをやっていきたいですね。大きなレストランのような巨大なレーベルではなく、1日30食限定で、売り切れたら暖簾を仕舞うようなお店でいいんです。ちょっとでも人と違う、自分にしかできない得意な部分を生かしていきたいです」と、大江さんは話す。

実際に弾きながら、ジャズのリズムを説明する

2018年8月5日に発売されるニューアルバムのタイトルは、『Boys & Girls』。ポップス時代の自身のヒットソングを、今のジャズにアレンジして演奏した曲が収録されている。「過去の僕を知らない人たちが、新曲として「こんな曲があるんだ」と思って聞いてもらえるアルバムをイメージして作りました。“ジャズを知った今の僕が、ポップスの僕に会いにいく”というテーマです」。過去の千里さんを知る人にとっては、ジャズのジャンルに挑戦する今の千里さんがプロデュースすることで、ソロピアノがどんな風に変わるのかが実感できるだろう。

日本とアメリカの違い

「日本との違いを感じたのは、アメリカでは人の話を皆よく聞くということ。自分の意見があったとしても、まずは人の話を否定せずに1回聞いて、自分の中に入れたうえで『自分はこう思うんだけど』と順序よくロジカルに話します。一方、言葉や会話の中で喋っていない部分(スパース)を楽しむことも大事。相手から受け取った言葉からどれだけイメージを広げるかという会話の楽しさも学びました。スパースが大事なのはジャズも一緒。リズムの間にスパースを作って、その空間を楽しむ、それがジャズなんですよ」

アルバムの発売前日である8月4日には、ロサンゼルス近郊のスタジオシティでワールドプレミアが開催される。ジャズへの挑戦を経て、ポップス時代の曲がどのように変化したのか、進化のほどが楽しみだ。

大江さんの身振り手振りを交えたおもしろいエピソードに、観客からは笑い声も

Senri Oe – Boys & Girls ワールドプレミア
開催日:2018年8月4日(土) 6:30pm〜 / 9:00pm〜(2ショー)
場所:Vitello’s Supper Club (4349 Tujunga Ave, North Hollywood, CA 91604)
チケット購入:
6:30pm https://ticketf.ly/2sCzvpI
9:00pm https://ticketf.ly/2Lvup5D
詳細:https://www.facebook.com/events/1827233800913214/

ニューアルバム『Boys & Girls』
発売日:2018年8月5日(日)

大江千里(おおえせんり)
大阪府生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビューし、2007年末までに45枚のシングルと18枚のオリジナルアルバムを発表。自身の作品として、「格好悪いふられ方」「ありがとう」など。作家としては松田聖子の「PEARL WHITE EVE」「雛菊の地平線」「凍った息」、渡辺美里の「10YEARS」「すき」「夏が来た!」、郷ひろみの「COOL」などを手がけた。2008年にジャズピアニストになるためニューヨークへ渡米。2012年に個人レーベル「PND Records」を立ち上げた。
http://www.peaceneverdie.com

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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