海外教育Navi 第14回
〜高校生を連れての渡航、滞在、帰国まで〜〈後編〉

記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団に所属するプロの相談員たちが一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.高校生を連れて海外赴任します。渡航前、滞在中、帰国時に気をつけなければいけないことを教えてください。

前回のコラムでは、渡航前に高校生のお子さんの精神面や転入先の学校についてケアするべきことを解説しました(前回記事へ)。今回はその続きをお話しします。

滞在中

卒業までにかかる時間

日本から初めてアメリカに行った高校生が卒業までどのように学習しているか、日本人の生徒が多い地区の現地校の先生に聞いてみたことがあります。すると、「日本人の生徒はよく努力するのでGrade 10に入ってGrade 12で卒業するケースもまれではありません」ということでした。

生徒本人にしてみれば「1年目は地獄のようだった」ということになるかもしれませんが、高いモチベーションと家族のサポートがあれば3年間で卒業にこぎつけることはまったく不可能なことではないといえそうです。

ハイスクールの1年目が、日本の中学3年生にあたるGrade 9から始まる場合には、中3以降に学習した内容の一部はハイスクールの卒業単位として認められますが、それにしても英語で学習の成果が上げられるようになるまでには時間が必要です。高2や高3の年齢でアメリカに行くとすれば、卒業までにはそこから3年ぐらいはかかると見込む必要があるでしょう。

なおGrade 12までに卒業の要件を満たせない場合は、留年の形でハイスクールに残るか、アダルトスクールのような教育機関に通って足りない部分を補うことになります。

以上はアメリカの例ですが、ほかの国やインターナショナルスクールの場合は、それぞれの教育システムに応じて事情が異なります。

学習への取り組み方

小・中学校に比べて高校の学習内容が難しいのは確かですが、高校生には日本でそれまでに学んできた知識や学習の仕方を新しい環境で生かすことができるという強みがあります。辞典を使いこなすこともできるし、日本語の文献を読んでレポートの材料にすることもできるのです。

慣れない言語で進んでいく授業のペースに最初からついていくことは難しいですが、宿題は自分のペースで進めることができます。宿題をできるだけ丁寧にこなすことは、自信を持って学習できるようになるための近道といえます。最初は家族や家庭教師などの助けを借りることが必要でしょうが、だんだん自分でできるようになっていくことで学習の力がついてきたことを実感するでしょう。

日本にいる同級生がどんな学習をしているかが気になるかもしれません。しかし、宿題と次の日の最低限の準備だけでも一日のエネルギーを使い果たすくらいのたいへんさでしょう。無理なことを思い悩むより、いまできることに集中する方が賢明だと思います。帰国生として高校の編入試験や大学の入学試験を受けるとしたら、第一に問われるのは「海外でどれだけのものを身につけたか」ということです。

帰国後

日本の高校に編入する

中学校までと違って、高校ではかならずしも年齢相当の学年に入らなければならないということはありません。どの学年に編入するのがベストか学校と相談するとよいでしょう。大学の一般入試を受けるのであれば日本での準備期間が短いのはどうしても不利になります。一方、帰国生入試なら帰国後の期間が受験資格に影響します。

大学を直接受験する

帰国生入試のスケジュールは一般入試と大きく異なる場合があります。早めに確認して書類の準備などが遅れることのないようにしましょう。大学によっては個別に受験資格の確認が必要になります。

試験の内容は、英語のテストスコアや海外の学校の成績等の書類審査と面接、小論文などを組み合わせた形が主流ですが、理系では数学、理科等の学科試験を行う場合もあります。

大手予備校などが帰国生のための受験準備コースを持ち、入試の情報を提供しています。必要に応じて利用するとよいでしょう。

さまざまな可能性

高校生は、自分の生活について自分でいくらか責任を持つことができる年齢です。それだけに、小さい子のように「すぐに帯同か単身赴任か」の二つに一つではなく、いろいろな選択が可能になります。二つの例をご紹介しましょう。

①日本の高校に在籍したまま海外を経験をする
多くの高校には海外留学の制度があります。学校によっては、海外で保護者のもとから1年間学校に通うことも留学として認められます。1年たって帰国したとき、出発前の同級生といっしょの学年に戻れる場合もありますが、一つ下の学年に入れば、日本の高校の学習を犠牲にすることなく、海外の貴重な経験を自分のものにすることができます。場合によっては、休学という方法も考えられます。

②高校卒業を待って渡航する
高校3年生の場合など高校生活の後半の段階になっていると、すぐに渡航するのは難しいでしょう。その場合は、ひとまず日本で高校を卒業してから渡航することを考えてもよいでしょう。

大学に入学してから留学や休学等で渡航する方法もあります。海外で学ぶことを勧めるためにいろいろな制度を設けている大学も少なくありません。

我が家の場合は、高3だった娘が専門学校に合格しましたが、入学を1年間待ってもらって家族でのアメリカ生活を実現させました。彼女は1年後に単身帰国して進学したのですが、本人にとっても家族にとってもたいへんよかったと思っています。

日本の高校生は、いまの同級生と学年がずれることに大きな抵抗感を持つ場合が多いのですが、そこから解き放たれると選択の幅がいっきに広がります。家族で視野を広く持ち、柔軟な思考で可能性を切り開いていただきたいと思います。

今回の相談員
教育相談員
佐々 信行

2008〜2014年、啓明学園中学校高等学校校長。2001〜2008年、啓明学園初等学校校長。1992〜2001年、バージニア州グレートフォールズ小学校イマージョンプログラム教諭(同時にワシントン補習授業校教諭)。1971〜1992年、横浜市立小学校教諭(1974〜1977年、ハンブルグ補習授業校教諭)。長女はドイツ生まれ、長男はアメリカで中高を過ごす。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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