こんな時どうする?
アメリカ生活お役立ちBook〈法律編〉
- 2019年6月3日
- 2019年6月号掲載
企業トラブル
日系企業は労使関係のトラブルが多い
日系企業の従業員が会社に対して訴訟するケースで現在もっとも多いのが、未払い賃金支払い訴訟です。時間外労働分の支払いを求めるものが主ですが、休憩時間(Rest Period)、食事休憩(Meal Period)など、従業員に法律上与えられるべき時間が与えられなかった、という請求も多く見られます。トラブルの原因に、日本特有の労使関係の風習をアメリカに持ち込んでしまうことが挙げられます。その場合、訴訟になった時に咎められる可能性があるので、現地の法律で動くことが根底にあると理解しなければなりません。
一方、差別やセクハラといった主張は、90年代に比べて質が変わってきています。以前は職場でその事象が継続的に発生している間に訴訟となる例が多かったのですが、現在は、州によっては過去の問題も訴訟を可能にするような動きも見られ、遡及的な訴訟が増加傾向にあります。
訴訟を起こされたら
訴訟になったら、まずは必ず弁護士に相談してください。弁護士は相談された事項について守秘義務が存在するので、訴訟で相手方から情報開示を求められても拒否できます。しかし、労働コンサルタントなど弁護士以外に相談した場合、相手方が情報開示を要求してきたら応じなければなりません。これで痛い目に遭う企業はたくさんいます。
また、相手方の弁護士から関連書類について「現状維持」の通知があった場合、会社側は特に電子的な情報につき保全しなければなりません。次に、訴訟の種類にもよりますが、担当部署もしくは責任者が状況について関連する従業員から聞き取り調査をします。できれば同意を得たうえで、その調査を録音したり紙に残したりしましょう。
雇用関係の訴訟における証拠開示手続きを怠ると、さまざまな訴訟上の制裁があるので、企業側は真摯に対応しましょう。賃金未払い請求がある場合には、賃金に関する細かい書類等も提出する必要があります。賃金と労働時間等の管理はしっかりしておくことが重要です。
普段から気をつけるべきこと
労働関係法は毎年改正されるため、就業規則や賃金に関する規則など、社内の書類群を毎年チェックすることは重要です。労働法には連邦法だけでなく州の法律もあるため、自社の所在地だけでなく、支社がある場所などを管轄する法律も押さえておきましょう。日系企業に多いのが、口約束で決めた内容について後でトラブルが発生すること。雇用についての内容や就業時の規律などは、逐一書面で残しておくことが重要です。
また、情報の風通しは大切です。従業員の意見をマメに聴取できるような、オンラインシステムを構築しておくのも良いでしょう。問題をすぐに相談できる社内窓口を用意しておき、聞き取りの仕方や弁護士とのやりとりをマニュアル化しておくと、後日訴訟になった際も会社側がベストな対応をしていたという主張の根拠になり得ます。
90年代は差別やセクハラ、現在は未払い賃金支払い請求というように、企業訴訟のトレンドは刻々と変化していきます。第一線で雇用関係の訴訟の相談を受けている弁護士を味方につけて、情報を常時入手するようにしましょう。
鈴木淳司
415-618-0090(San Francisco Office)
408-998-6754(San Jose Office)
https://www.marshallsuzuki.com
在米日系企業が気をつけるべき「予想外の」法的リスクとは
駐在員のビザ、契約、保険といった日系企業の法務とは一見関係のない「予想外」の法的事象にこそ、大きな財務的損失やリスクが潜んでいることがあります。米国反トラスト法(競争法)違反嫌疑による刑事捜査や民事訴訟がこれに当たり、自動車部品の事件では60社近い日系企業が対象となりました。競争法には、米国内の商取引に影響を与える米国外の行為も対象となる「域外適用」があるため注意が必要です。また、海外腐敗行為防止法(FCPA)にも域外適用があります。米国内で事業を行う日系企業の関連会社によるアフリカでの行為がFCPAの規定条項に触れ、証券取引委員会の捜査対象となって多額の和解金を支払った事例もありました。
さらに、米国では法的紛争の極めて初期の段階で関連文書の保全義務が生じます。2015年に改正された連邦民事手続き規則では、法的紛争に関連する証拠書類を保全する義務は、訴状を受け取る前に生じるとされています。米国では連邦裁判所と州裁判所で管轄案件が異なり、いずれにおいても連邦法と州法が適用されるため、予想外のリスクを最小化するためには、専門知識を持つ弁護士に予防的相談を行うと良いでしょう。
コンスタンティン・キャノン法律事務所
椎名葉
212-350-2700
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