デトロイト・ファン・シティ
- 2019年11月21日
- ミシガン州
1940年頃には180万人が住み、全米で4番目の都市だったThe Motor City、デトロイト。産業の停滞とともに人口は約70万人に減少し、2013年に破産申請をしました。しかしその後、さまざまな支援や自助努力でみごとに復活し、2018年には旅行情報誌で世界で行きたい旅行先第2位にランクイン。今回は、2019年の今、America’s Comeback Cityと呼ばれているミシガン州デトロイトをご紹介します。
デトロイトを舞台にした映画は数多くあります。古くは『ロボコップ』(1987)から、エミネムの自伝的な『8マイル」(2009)、クリント・イーストウッド監督・主演の『グラン・トリノ』(2008)、公民権運動時代の実話に基づいた『デトロイト』(2017)まで。映画自体はとても興味深いのですが、どれも「治安面がちょっと心配」と思わせる作品ばかり。しかし、2019年デトロイトへの旅は、いい意味で予想を裏切られました。
ダウンタウンの雰囲気はとても穏やかで、Guardian BuildingやPenobscot Buildingのような歴史的な建造物が立ち並びます。摩天楼の中でひときわ目を惹くのが、ウォーターフロントにあるRenaissance Center。ゼネラル・モータース(GM)の本社がある高層ビル群です。円筒形のタワーを見上げると、最上部にGM社のブランドであるキャデラック、シボレー、GMC、ビュイックなどのお馴染みのロゴが順番に映し出されています。
デトロイト川に沿って遊歩道が整備されており、穏やかな川を行き交う貨物船や、川向こうのカナダの都市ウィンザーの景色を見ながら、ゆっくりと散歩を楽しめます。この川沿いには、奴隷制のあった南部の州から北部へ逃亡する黒人たちを手助けしたデトロイトの役割を記念する彫像「自由への扉」があったり、廃屋が残っている地域が見えたり、デトロイト川の汚染がひどかった時代の説明などが配されていたり、この町が通ってきた苦難の歴史を垣間見ることもできます。
デトロイトはアートが盛ん
わりとコンパクトなデトロイトのダウンタウンを歩いていると、パブリック・アートが盛んであることを感じます。注目したいのは、1986年の作品“Fist”。デトロイトが誇る黒人ボクサー、ジョー・ルイスの腕をモチーフにしたアートは、差別に反対するデトロイト市民の感情を表現しているかのようです。デトロイトの市章をアートで表現した“Spirit of Detroit”(1958)は、右手に「家族」、左手に「神」を持った像。市民にも親しまれていて、遊び心たっぷりに、片手にバーガー、片手にシェイクを持たされたハンバーガー屋の看板になったりしています。
パブリック・アートだけでなく、美術館も充実しているデトロイト。必見なのは、ミッドタウンにある「Detroit Institute of Art(デトロイト美術館、通称DIA)」。建物の美しさや屋外のアートがまず出迎えてくれ、ゴッホの『Portrait of the Postman Joseph Roulin』やピカソの『Melancholy Woman』など、名画の数々に圧倒されます。なかでも目玉は、デトロイトの産業や労働者をギャラリーいっぱいに描いたディエゴ・リベラの壁画『Detroit Industry』。巨大な絵画の中には人々の勤勉さ、哀しさや誇りなどがちりばめられ、まさに圧巻です。
伝説のスタジオがある音楽の町
デトロイトは、音楽の町でもあります。1959年Motownというレコードレーベルが創立され、ダイアナ・ロスのシュープリームス、マイケル・ジャクソンもいたジャクソン・ファイブ、スティービー・ワンダー、マービン・ゲイなどに代表されるモータウン・サウンドを生み出しました。
ごく普通の住宅街にあるMotownレーベルの伝説のスタジオは、モータウン・サウンドの歴史を紹介するミュージアムとなっており、60周年を迎えた2019年も世界中の音楽ファンが集まります。ミュージアムの見学はツアー参加のみ。知識豊富でノリのいいガイドさんは参加者のどんな質問にも熱心に答えてくれ、みんなで「マイ・ガール」などの名曲を熱唱しながらツアーが進んでいくので、音楽好きには忘れられない体験になるはずです。
年中スポーツに盛り上がる一面も
4大プロスポーツがすべてあるうえ、近郊にミシガン大、ミシガン州立大という全米に名を馳せる大学スポーツの強豪校があり、年中スポーツで盛り上がるデトロイト。特にプロスポーツのどれもが、デトロイトの町をよく体現しているともいえます。大リーグのタイガースは、車産業が好調で人口も多かった1940年前後に2回ワールド・チャンピオンになり、NFLのライオンズは、2000〜2010年まではプレイオフに出られないほど不調のシーズンが続きましたが、2011年以降は9年で3回と復活を遂げています。両チームともデトロイトのダウンタウンの便利の良い場所に遊び心満載のスタジアムを構えています。
本拠地を2017年にデトロイトの郊外からダウンタウン近くに移転したNBAのピストンズは、マイケル・ジョーダン時代のシカゴ・ブルズのライバルチーム。Bad Boysと呼ばれたプレースタイルは、強いものに何としてでも立ち向かっていくというデトロイトの心意気を感じさせるものでもありました。そしてデトロイトの人の自慢といえば、アイスホッケーのレッド・ウィングス。NHLの優勝11回を誇る強豪です。レッド・ウィングスの活躍は、デトロイトの寒い冬も熱くさせるようです。
ダウンタウンの不思議な名物
デトロイトのダウンタウンの新しい名物といえば、「電動」スクーターと「足漕ぎ」居酒屋。スクーターはBird、Lime、Spinなど各社あり、いつもと違うスピードで町を眺めたい住民や、らく~に移動したい観光客が利用しています。
そして、夕方からデトロイトの町にどこからともなくやってくるのが「足漕ぎ」居酒屋の車。運転手はいるものの、10人くらいの客が向かい合わせで座って、ビールなどを飲みながらペダルを漕いでいます。この車がどうやって動いているか、飲酒運転にならないのかなど謎は尽きませんが、町行く人に元気にあいさつしながら盛り上がっているさまには思わず笑みがこぼれます。交通量の多いニューヨークやロサンゼルス、坂道の多いサンフランシスコやシアトルのような都市ではできない、デトロイトならではのアトラクションともいえるでしょう。
まだまだある、デトロイトの魅力
このほかにも、車産業やアメリカの歴史を紹介する博物館「The Henry Ford」、世界的に有名な古本屋の「John K. King Used & Rare Books」、農業州であるミシガンが誇るファーマーズ・マーケット「Eastern Market」、デトロイトの職人魂を見せる時計や自転車のメーカー「SINOLA」など、デトロイトの魅力は尽きません。四角形で分厚いデトロイトスタイルのピザもお忘れなく!
アメリカ中西部の大都市の一つであるデトロイトは、「車の町」「労働者の町」「音楽の町」「芸術の町」であり、“The D”“Detroit Rock City”“D TOWN”“Hockey Town”などさまざまな愛称があります。2019年に訪れたデトロイトは、その愛称の数々に“Detroit Fun City”と加えたくなるほど、楽しさが溢れる魅力的な町でした。
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします