第52回 ロゼワインの快進撃が止まらない!

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

南仏ロゼの生産者と
Photo © Yuki Saito

昨年「ワイン業界の、次のホームランは何か?」という題名で記事を書いたが、その時に人気のロゼワインを失念していた。というか、ロゼが世界の注目を集め出してから既に10年近くが経っており、話題性が見い出せなかったからだろうか。不徳の至りである。同じロゼでも、いわゆるホワイトジンファンデルやら、ブラッシュワインと呼ばれる甘口のロゼではない。正真正銘のプロヴァンスのロゼである。

ロゼの世界的ブームに火をつけたのは、本国フランスとアメリカだ。ロゼといえば美しいサーモン色をした、辛口の南仏プロヴァンスがご本家。フランス人のワイン離れが加速して久しいが、ロゼの売り上げは、白赤ワインの低迷 をよそに上昇する一方で、今ではワインの3割を占めるまでになった。その火つけ役は、ミレニアルと呼ばれる1980-1996年生まれの(これは統計者によって多少の差があるが)若者たちで、ビールやカクテルを好むいわゆる「ワイン離れ世代」だ。その彼らが何故ピンクワインに飛びついたのだろうか?

幾つかの要因が考えられるが、まずロゼの身軽さだろう 。超辛口から甘口まで何でもあるし、飲みやすいフレッシュさが売りだが、白ワインほど軽くもないし、赤ワインほどシリアスではない。価格帯も3ユーロから15ユーロと手ごろで、夏の暑い盛りにキンと冷えたグラスで飲むとたまらない。それとカクテルのベースとしても面白い。フランスでは特に若い女性に人気が出たようで、南仏の住人や旅行者、そして全仏で売っている手ごろなスーパーマーケットロゼも含めて、大ヒットとなった。フランスは世界で一番ロゼを生産する(7.6 ヘクトリットル)国だが、昨年は需要が上回り(8.1ヘクトリットル)ロゼを外から輸入したほどだ。お陰で、フランスは世界最大のロゼ生産、消費、輸入国となった。ちなみに輸出はスペイン、イタリアに次いで3番目。スペインとイタリアとの大きな違いは、フランスは国内で大量のロゼを消費する国だということ。

どちらが樽のロゼ?
Photo © Yuki Saito

驚くことに、ロゼ第二の消費国はアメリカで、フランスとアメリカの2国で世界の半分のロゼを飲んでいる。というと、『だってブラッシュワインを沢山飲むからでしょう?!』と言われそうだが、それは過去の話。ワイン文化が定着してきたアメリカでは、ボージョレヌーボーやブラッシュを飲む階層(?)は減ってきている。フランスのロゼの発祥地もリゾート地だが、アメリカでのロゼワイン流行の火つけ役は、ニューヨークの避暑地、ハンプトンであった。筆者も現役の金融マンの時に、夏になるとハンプトンに週末別荘を借りて、通ったものだ。経験者ならよく分かると思うが、マンハッタン族が多く滞在するハンプトンでは、ショッピングやレストランに行くとご近所さんや同僚にばったり出くわすことがよくある。要は、同じ人口が週末はビーチハウスに住んでいて、平日は市内に帰って、仕事をしているというわけだ。

暑いニューヨークの夏を、ハンプトンで過ごした人たちの間で愛飲されたのが主にフランスのロゼワインというわけ。これだけの話であれば、どこの国でもあることだが、そこはわがニューヨーカー達。夏が終わって自宅に帰っても、ペアリングによく合い、守備範囲の広いロゼを日常的に飲み始めたのだ。更に革新的だったのは、若い男性達がロゼを支持して、わざわざメディアに「男だってロゼを飲む! いや、男らしい男はロゼを飲もう!」と呼びかける始末。まあ、頼もしい。お陰で、全米に広がったロゼブームであるが、今ではアメリカ人のロゼ人口比率は、男女半々近くになってきているとか。

ロゼの陳列棚
Photo © Yuki Saito

 ロゼが流行るには、消費者の支持だけでは無理で、生産者及び流通業者のサポート体制が不可欠だ。その点、アメリカはフランスと違い、どんなブドウも育つし、どんな品種を使っても法的に許されるので、すぐにフランスの品質にマッチするロゼを生産するようになった。お陰で今ではどこのスーパーに行っても、プロヴァンスは勿論、国産、輸入ロゼが1年中並んでいる。そうだ、今夜は久しぶりにロゼを飲もう!

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 2024年10月4日

    大谷翔平選手の挑戦
    メジャーリーグ、野球ボール 8月23日、ロサンゼルスのドジャース球場は熱狂に包まれた。5万人...
  2. カナダのノバスコシア州に位置する「ジョギンズの化石崖群」には、約3 億5,000 万年前...
  3. 世界のゼロ・ウェイスト 私たち人類が一つしかないこの地球で安定して暮らし続けていくた...
  4. 2024年8月12日

    異文化同居
    Pepper ニューヨーク同様に、ここロサンゼルスも移民が人口の高い割合を占めているだろうと...
  5. 2024年6月14日、ニナが通うUCの卒業式が開催された。ニナは高校の頃の友人数名との旅行...
  6. ラブラドール半島のベルアイル海峡沿岸に位置するレッドベイには、16世紀に繁栄したバスク人による捕鯨...
  7. フェムケアの最新事情 Femcare(フェムケア)とは「Feminine」と「Car...
  8. 日本では、何においても横並びが良しとされる。小学校への進学時の年齢は決まっているし、学校を...
ページ上部へ戻る