海外教育Navi 第64回
〜アメリカ現地校の特別指導と自己調整力〜〈後編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.小学生の子どもがアメリカの現地校で廊下を走ったから「特別指導」をするという連絡が学校からあったのですが、どういうことでしょうか。

前回のコラムでは、PBISとは何かについてご説明しました(前回記事へ)。今回は、自己調整力についてお話しします。

学校が厳しすぎる?

学校の反応に驚かれたようですが、学校の方も、うっかり廊下を走ったというだけで「特別指導」を行うことはありません。通常は、「廊下はどのように移動するのだったかな?」と望ましい行動を思い起こさせ、走ることが危険であることを確認します。そして、その後、望ましい歩き方ができていれば、それを褒めていきます。

ただ、その後も廊下を走ることが何度も続いたり、走っているときに歩くように先生から言われたのにやめなかったりすれば「安全」のみならず「リスペクト」「責任」の面での問題にもなってきますので、学校では望ましい行動の「再指導」を行ったり、その子が望ましい行動を取れない原因となった「不足しているスキル」、たとえば問題解決や状況判断のスキルなどを小グループでトレーニング(数回)したりします。

またスキルはあっても「使うべきときに使えない」「ときどきしか使えない」など実行機能がうまく活性化していない子どもにはトレーニングでその精度を上げていきます。

したがって、お子さんに勧められた「特別指導」というのはこれらにあたるのではないかと想像します。この指導に至った経緯を学校から説明してもらうとよいかと思います。

「指導」といっても、「ドラえもん」ののび太君が叱られているような叱責の光景とは違います。また、この指導やトレーニングを受けたことが日本で進学する際の内申書に記載されることはありません。

キーワードは「自己調整力」

子どもたちに求められているのは、教師の号令に従って行動することではなく「自分で考え判断し行動できること」です。これを可能にするには「自己調整力」がキーになります。そして自己調整力は学習を進めていくうえでも重要です。ほかのことに気が取られて学習に無関係な行動やおしゃべりをしはじめたくなる衝動を抑制し、さまざまな干渉に打ち勝つ必要があります。それをコントロールするのが自己調整力です。もちろん、将来の成功のうえでも重要なのは明らかですね。

「PBIS」はまさにこの力を子どもたちのなかに育む取り組みなのです。
親としては子どもが学校で問題行動を起こしたと言われ、心穏やかではないでしょう。厳しくお子さんを叱ることもあるかもしれません。でも、叱ったあとはどうぞ「次はどうしたらよいだろうか?」という話し合いをお子さんと持ってください。

目的は懲戒ではなく「改善」

たとえば遊び場で「おまえとは遊ばない」「あとをついてくるな」「向こうに行け」などと友だちに言って仲間外れにする子がいるとします。みんなでいつも仲よく遊ぶとか、毎日同じ子と遊ぶことを強要はしませんが、ここで使っていることばは相手を傷つける言い方ですから適切ではありません。そのことに気づかせ、どのようにしたら改善できるか考えさせ、この場合であれば、「また今度ね」「遊びたいと思ってくれてありがとう」ということばならば優しい適切な言い方であることをその子どもと確認して促します。「唾を吐いた」「いやだというのに肩を叩いてきた」「あっかんべをした」等も同様に指導します。「たわいのないことだ」と思われるかもしれません。たしかに小さなことです。でも、ここでより適切な行動を教えて使えるようにしておけば、エスカレートした「深刻な」事態になることを防ぐことになります。

こんなとき、「だって向こうが前に同じことをやったから」「もっとひどいことを先にされたからこっちもやった」などと、誰がどういう理由で始めたということにこだわってしまいがちです。しかし、ここではその子の取った行動に焦点を当てて、理由はどうあれ、その行動が適切でなかったことを指摘し、次はどうしたら改善できるかを考えます。望ましくない行動をなくすことが主眼だからです。違反をしたので罰する、という懲戒ではないのです。

今回の相談員

ニューヨーク日本人教育審議会・教育文化交流センター教育相談員
バーンズ 亀山 静子

ニューヨーク州公認スクールサイコロジスト。現地の教育委員会を通じ、幼稚園から高校まで現地校・日本人学校を問わず家庭で日本語を話す子どもの発達・教育・適応に関する仕事に携わる。おもに心理教育診断査定、学校のスタッフや保護者とのコンサルテーション、子どもの指導やカウンセリングなどを行う。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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